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「双極性障害だと脳が萎縮すると聞いて怖くなった」「自分の脳が縮んでいくのではないかと不安」「家族の双極性障害が進行して認知症のようになってしまうのではないか」——『双極性障害 脳 萎縮』というキーワードで検索された方の中には、強い不安を抱えてこのページにたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えします。双極性障害では確かに一部の脳部位で萎縮が見られることが研究で報告されていますが、これは決して「脳が崩壊する」ような不可逆的な変化ではありません。むしろ、適切な治療(特にリチウムなどの気分安定薬)によって、萎縮した部位が正常化するという研究結果もあるほどです。
「脳が萎縮する」という言葉のインパクトは強く、認知症のように人格や能力が失われていくイメージを抱きがちですが、実際には双極性障害の脳萎縮は認知症とはまったく異なる性質のものです。早期治療・服薬継続・生活習慣の改善で、状態の安定が期待できます。
この記事では、双極性障害と脳萎縮の関係を医学研究のエビデンスに基づいて正しく解説し、萎縮する部位・原因・症状との関連・認知症との違い・治療と予防策まで、精神科医の視点から網羅的にお伝えします。正しい知識を得て不安を和らげ、適切な対策に取り組むための一歩としてください。
双極性障害でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
双極性障害と脳萎縮の関係【正しく理解する】
確かに脳萎縮が報告されている事実
正直にお伝えすると、近年の脳画像研究の進歩により、双極性障害の方の脳に「萎縮」や「機能低下」が見られることが明らかになっています。
具体的には、感情制御や思考に関わる前頭前野の一部(背外側前頭前皮質や前帯状皮質)、記憶を司る海馬、感情処理を担う扁桃体などで、健康な人と比較して体積の減少が報告されています。日本だけでなく米国の研究でも同様の結果が確認されており、広く一般的にいえる現象とされています。
ただし「不可逆ではない」という重要な事実
ここで強調したいのは、双極性障害の脳萎縮は「不可逆」(元に戻らない)ものではないということです。認知症のように一方的に進行し続けるものではなく、適切な治療によって安定したり、部分的に改善したりすることが報告されています。
- 治療によって萎縮が進行を止められる
- 一部の薬剤(特にリチウム)で萎縮が改善する
- 再発予防が脳を守る
- 生活習慣の改善で進行を遅らせられる
つまり、脳萎縮は「対処不能な病気の進行」ではなく、「治療と予防で十分にコントロールできる症状の一つ」と捉えるのが正確です。
リチウムで正常化するという研究結果
特に重要な研究結果として、双極性障害の治療薬として最も古くから使われているリチウム(炭酸リチウム)を服用している方では、脳萎縮が正常化することが報告されています。
具体的には、感情のコントロールに関わる「前部帯状回」と呼ばれる部位は双極性障害の方で小さくなっていることが報告されていますが、リチウムを服用している方ではこの部位に改善傾向がみられることがわかっています。これはリチウムの「神経保護作用」と呼ばれる、脳細胞を守り再生を促す働きによるものと考えられています。
過度に恐れる必要はない
「脳が萎縮する」という言葉の印象から、人格が変わる・能力が落ちる・認知症になる、といった不安を抱く方も多いですが、これは正確ではありません。
- 双極性障害の脳萎縮は微細な体積の変化
- 見た目や人格が大きく変わるレベルではない
- 認知機能の影響も限定的(個人差大)
- 約3〜5割の方は認知機能が比較的維持される
- 早期治療・継続治療で予後が大きく変わる
過度な不安は、それ自体がストレスとなり脳に悪影響を与えます。正しい理解と適切な対策で、不安をエネルギーに変えていきましょう。
双極性障害で萎縮しやすい脳の部位
前頭前野(背外側前頭前皮質・前帯状皮質)
双極性障害で最も顕著に萎縮が報告されているのが、前頭前野です。前頭前野は脳の前方に位置し、思考・判断・感情制御などの「人間らしい」高次機能を担う重要な領域です。
- 【背外側前頭前皮質】計画立案・意思決定・実行機能
- 【前帯状皮質】感情制御・注意・葛藤処理
これらの部位の萎縮は、双極性障害特有の感情の不安定さや判断力の低下と関連していると考えられています。
海馬
海馬は脳の側頭葉内側に位置し、新しい記憶の形成と保持に重要な役割を担う部位です。双極性障害でも海馬の萎縮が報告されており、これが「記憶が飛ぶ」「新しい情報を覚えにくい」といった記憶障害の症状と関連しています。
海馬は慢性的なストレスやコルチゾール(ストレスホルモン)に弱い部位として知られ、双極性障害の方の繰り返すストレス状態が海馬の萎縮につながると考えられています。
扁桃体
扁桃体は脳の側頭葉深部に位置する小さな部位で、恐怖・怒り・喜びなどの感情処理を担っています。双極性障害では扁桃体の萎縮や機能異常が確認されることがあり、これが感情の過剰な反応や不安の増大と関連していると考えられています。
躁状態での激しい感情の高揚、うつ状態での強い不安、混合状態での情緒不安定など、双極性障害の感情面の症状の背景には、扁桃体の機能変化があるとされています。
山口大学・AMED研究の知見(1531人)
日本では、山口大学の松尾幸治准教授らの研究グループが、AMED(日本医療研究開発機構)の支援を受けて、1531人(うつ病596人、双極性障害158人、健常者777人)の脳MRI画像を解析する大規模研究を行いました。
この研究で明らかになったことを整理します。
- 双極性障害群はうつ病群と比べて、左右の背外側前頭前皮質と前帯状皮質の体積が小さい
- 患者群全体では健常群と比べて、右の前帯状皮質と左下前頭皮質が小さい
- 米国の参加者でも同様の結果が再現された
- 背外側前頭前皮質と前帯状皮質は、双極性障害とうつ病を判別する重要な部位
- SVM(サポートベクターマシン)解析では、双極性障害と健常者を88.1%の精度で判別可能
この研究は、将来的にMRI検査による双極性障害の客観的診断や、これらの脳部位を回復させる新たな治療法の開発につながる可能性があります。
萎縮した部位と症状の関係
脳の萎縮部位と症状の関係を整理しました。これを理解することで、自分の症状の背景を知ることができます。
|
脳の部位 |
主な機能 |
萎縮による影響 |
|---|---|---|
|
背外側前頭前皮質 |
計画・判断・実行機能 |
意思決定の困難・衝動的な行動 |
|
前帯状皮質 |
感情制御・注意・葛藤処理 |
感情の起伏が激しくなる |
|
海馬 |
記憶の形成・想起 |
記憶障害・新しい情報の定着困難 |
|
扁桃体 |
恐怖・怒りなどの感情処理 |
感情の過剰反応・不安の増大 |
|
下前頭皮質 |
言語・抑制機能 |
言葉の制御・抑制の低下 |
前頭前野の萎縮→感情制御・判断力の低下
前頭前野の萎縮は、双極性障害の中核症状である感情の不安定さと判断力の低下に直接関わっています。
- 躁状態での衝動的な決断
- 感情のコントロールができない
- 判断力の低下
- 計画立案の困難
- 複数の課題をこなせない(実行機能の障害)
これらは「人格が悪い」のでも「努力不足」でもなく、脳の機能変化によるものです。治療によって改善が期待できます。
海馬の萎縮→記憶障害
海馬の萎縮は、双極性障害でよく見られる「記憶が飛ぶ」「物忘れ」などの認知機能障害につながります。
- 新しい情報の記憶が困難
- エピソード記憶(出来事の記憶)の障害
- 名前や予定を忘れる
- 会話の内容を覚えていない
ただし、認知症のように一方向に進行するものとは考えられていません。メモなどで補えば日常生活に大きな支障をきたさない範囲が多いです。
扁桃体の萎縮→感情の過剰反応
扁桃体の萎縮や機能変化は、感情の過剰な反応や不安の増大と関連します。
- 些細なことで激しく怒る(易怒性)
- 不安が強くなる
- 情緒不安定
- 対人関係での過剰反応
躁状態の暴言・うつ状態の不安・混合状態の不安定さなど、双極性障害の感情面の症状の背景に扁桃体の機能異常があると考えられています。
認知機能障害との関連
脳萎縮は、双極性障害でしばしば見られる認知機能障害(記憶・注意・処理速度・実行機能の低下)の背景にあると考えられています。
ただし、双極性障害の方全員が重度の認知機能障害を抱えるわけではありません。国際双極性障害学会の報告によれば、約3〜5割の方は認知機能が比較的維持されています。脳萎縮が起きていても、脳の柔軟性(可塑性)によって機能を補えることが多いのです。
双極性障害で脳萎縮が起こる5つの原因

①神経伝達物質のバランス異常
双極性障害では、ドーパミン・セロトニン・ノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスが崩れています。これらの神経伝達物質は脳細胞の生存・成長・コミュニケーションに重要な役割を果たすため、長期的なバランスの異常は神経細胞の機能低下や脳の構造変化につながる可能性があります。
特に、神経細胞の成長を促すBDNF(脳由来神経栄養因子)というタンパク質が双極性障害の方では低下していることが知られており、これが脳萎縮の一因と考えられています。
②気分エピソードの繰り返し(キンドリング現象)
双極性障害では、躁状態・うつ状態のエピソードを繰り返すごとに、脳が「過敏に反応」するようになる「キンドリング現象」が起こることが知られています。
- 初期は明確なきっかけ(ストレス等)で発症
- 再発を繰り返すうちに小さなきっかけでも発症
- エピソードの間隔が次第に短くなる
- 脳への負担が累積し萎縮を促進
つまり、エピソードの再発を防ぐことは、症状を抑えるだけでなく、脳を守ることにもつながります。再発予防の重要性がここにあります。
③ストレス・コルチゾールの影響
慢性的なストレスは、副腎皮質から「コルチゾール」というストレスホルモンを過剰分泌させます。高濃度のコルチゾールは、特に海馬の神経細胞を傷つけ、神経新生(新しい神経細胞の生成)を妨げることが知られています。
双極性障害の方は気分の波・睡眠リズムの乱れ・人間関係のトラブルなどから慢性的なストレス状態にさらされやすく、これが海馬を中心とした脳萎縮の重要な要因となっています。
ストレス管理は、症状の安定化だけでなく、脳を守るためにも非常に重要です。
④慢性炎症と酸化ストレス
近年の研究では、双極性障害の方の体内では炎症レベルが上昇していることが報告されています。慢性的な炎症や酸化ストレスは、神経細胞にダメージを与え、脳萎縮を促進する要因となります。
- 炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6等)の上昇
- 酸化ストレス(活性酸素種)の増加
- 神経細胞の修復が追いつかない
- 脳組織の損傷が進行
バランスのよい食事(抗酸化物質を豊富に含む食品)・適度な運動・禁煙などは、炎症と酸化ストレスを抑え、脳を守ることにつながります。
⑤脳毛細血管障害(最新研究)
東京都医学総合研究所の平井志伸主席研究員らによる最新の研究では、双極性障害・統合失調症・アルツハイマー病の死後脳に共通して、脳の毛細血管に「フィブリン」というタンパク質が沈着する特徴的な脳毛細血管障害が見出されました(Journal of Psychiatric Research, 2023)。
この毛細血管障害により、脳細胞へのグルコース(エネルギー源)の取り込みが不全になり、長期的には細胞の機能低下や脳萎縮につながると考えられています。
興味深いことに、この毛細血管障害は双極性障害では「白質」に、統合失調症では「白質+灰白質」に、アルツハイマー病では「白質+灰白質+血管破綻」と疾患による特徴があり、パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症などの神経疾患では見られないとのことです。これは精神疾患特有の病態として注目されています。
うつ病・統合失調症との萎縮パターン比較
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比較項目 |
双極性障害 |
うつ病 |
統合失調症 |
|---|---|---|---|
|
主な萎縮部位 |
前頭前野・前帯状皮質 |
海馬 |
側頭葉・脳室拡大 |
|
感情制御部位 |
顕著な萎縮 |
一定の萎縮 |
やや影響 |
|
毛細血管障害 |
白質に出現 |
少ない |
白質+灰白質 |
|
進行性 |
非進行性(治療で改善可能) |
非進行性 |
一部進行 |
|
治療での改善 |
リチウムで正常化報告 |
抗うつ薬で改善 |
抗精神病薬で安定 |
双極性障害vsうつ病
双極性障害とうつ病はうつ症状で似ていますが、脳萎縮のパターンには明確な違いがあります。
- 【双極性障害】前頭葉の特定部位(背外側前頭前皮質・前帯状皮質)の萎縮が顕著
- 【うつ病】海馬の萎縮が特徴的
- これらの違いはMRI検査で双極性障害とうつ病を区別する手がかりになる可能性
感情制御を担う前頭葉の萎縮が双極性障害で顕著なことは、双極性障害特有の躁・うつの両極端な感情変化を反映していると考えられます。
双極性障害vs統合失調症
統合失調症では、双極性障害とは異なる脳構造変化が見られます。
- 【双極性障害】感情制御に関わる前頭前野・前帯状皮質
- 【統合失調症】思考・知覚に関わる側頭葉・脳室拡大
両疾患は症状も治療も異なりますが、共通して脳毛細血管障害が見られることから、根底にある病態メカニズムに共通点がある可能性も示唆されています。
アルツハイマー病との違い
アルツハイマー病(認知症の主要なタイプ)は、進行性の脳変性疾患で、双極性障害の脳萎縮とは性質が異なります。
- 【双極性障害】非進行性。治療で改善可能
- 【アルツハイマー病】進行性。脳細胞が徐々に死滅
- 【双極性障害】萎縮部位は限定的
- 【アルツハイマー病】広範囲(海馬から始まり全脳に進行)
双極性障害の脳萎縮を「アルツハイマー病のようなもの」と捉えるのは正確ではありません。次の章で詳しく解説します。
認知症との違い【明確に区別】
|
比較項目 |
双極性障害の脳萎縮 |
認知症の脳萎縮 |
|---|---|---|
|
進行性 |
非進行性(治療で安定・改善) |
進行性(徐々に悪化) |
|
発症年齢 |
10代後半〜20代から |
主に65歳以上 |
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萎縮のメカニズム |
ストレス・神経伝達物質異常 |
脳細胞の変性・死滅 |
|
症状の波 |
気分エピソードに連動 |
徐々に悪化する一方向 |
|
治療での改善 |
可能(リチウム等) |
進行を遅らせるのみ |
|
受診先 |
精神科・心療内科 |
脳神経内科・物忘れ外来 |
双極性障害の脳萎縮は進行性ではない
認知症との最大の違いは、双極性障害の脳萎縮は進行性ではないことです。
- 認知症:脳細胞の変性により徐々に悪化
- 双極性障害:治療によって安定・改善が可能
もちろん、治療を中断したりエピソードを繰り返したりすると脳への負担が増えることはありますが、これは「進行する病気」ではなく、「対処可能な要因による変化」です。適切な治療を続ければ、脳の状態を保つことができます。
治療で改善・正常化する可能性
双極性障害の脳萎縮は、適切な治療によって改善する可能性があります。前述したように、リチウムを服用している方では前部帯状回の体積が正常化するという報告があります。
認知症では現在の医学では「進行を遅らせる」ことしかできませんが、双極性障害の脳萎縮は「改善・正常化」も期待できる点が大きな違いです。
受診先・治療法の違い
受診先と治療法も異なります。
- 【双極性障害】精神科・心療内科。気分安定薬・抗精神病薬
- 【認知症】脳神経内科・物忘れ外来・認知症外来。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬等
双極性障害の方が認知症が心配な場合は、まず主治医に相談しましょう。必要に応じて認知症の専門医を紹介してもらうことができます。
中高年で心配な場合
双極性障害の治療を長く続けている中高年の方で「認知症ではないか」と心配な場合は、以下を確認してください。
- 物忘れの程度が、双極性障害のエピソードに連動しているか
- 生活リズム・服薬・通院は守れているか
- 過去半年〜1年で急激な進行はあるか
- 日常生活で支障をきたすレベルか
気になる場合は、主治医に相談しましょう。MRI検査や認知機能検査で客観的に評価することができます。不安を抱え込まず、専門家の判断を仰ぎましょう。
治療で脳萎縮を防げるのか

リチウムの神経保護作用
双極性障害の治療薬の中でも、リチウム(炭酸リチウム)は特に神経保護作用が注目されています。
- 脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を増加させる
- 神経細胞の生存を促す
- 神経新生(新しい神経細胞の生成)を促進
- 酸化ストレスを軽減
- ミトコンドリア機能を保護
これらの作用により、リチウムを長期服用している方では脳萎縮が正常化したり、進行が抑えられたりすることが報告されています。リチウムは「気分を安定させる薬」であると同時に「脳を守る薬」でもあるのです。
早期治療の重要性
脳萎縮を防ぐ上で、早期治療が極めて重要です。
- 発症から治療開始までの期間が短いほど予後が良い
- エピソードの繰り返しを防ぐことが脳を守る
- 初発時にしっかり治療すると将来の萎縮リスクを下げられる
- 放置するほど脳への負担が累積する
「まだ若いから」「軽症だから」と治療を後回しにせず、診断されたら速やかに治療を開始しましょう。
服薬継続が脳を守る
治療を継続することは、症状の安定化だけでなく、脳の保護にもつながります。
- 再発を防ぎキンドリング現象を抑える
- ストレスホルモンの分泌を抑える
- 神経伝達物質のバランスを整える
- リチウム等の神経保護作用を活かす
「調子がよくなったから薬は要らない」と自己判断で中止することは、再発リスクだけでなく脳萎縮のリスクも高めます。自己判断での服薬中止は、症状の再発と脳への負担増加の両方をもたらします。気になる副作用があれば必ず主治医に相談し、薬の調整を行ってください。
その他の薬剤の影響
リチウム以外の双極性障害治療薬の脳への影響は、薬剤によって異なります。
- 【バルプロ酸】神経保護作用が一定報告されている
- 【ラモトリギン】神経保護作用の可能性
- 【アリピプラゾール・オランザピン等】症状の安定化を通じて脳を保護
- 【抗うつ薬】単独使用は躁転リスクで脳に負担
どの薬剤を選択するかは、個々の症状・体質・併存疾患によります。主治医とよく相談してください。
脳萎縮を防ぐ・進行を遅らせる10の対策
①服薬の継続(特にリチウム)
最も基本的かつ重要な対策が、処方された薬の継続的な服薬です。特にリチウムには神経保護作用があるため、適応がある方は継続服薬が脳を守ることにつながります。
- 毎日決まった時間に服薬
- 自己判断での減薬・中止をしない
- 血中濃度の定期測定(リチウム服用時)
- 副作用は隠さず主治医に相談
②再発を予防する
再発を防ぐことが、キンドリング現象を抑え脳を守ります。
- 自分の再発サインを把握する
- 気分日記をつける
- 家族とサインを共有
- サインが出たら早めに主治医に相談
- ストレスイベントを事前に対策
③睡眠リズムの安定
睡眠リズムの安定は、症状の安定と脳の健康の両方に重要です。
- 毎日同じ時間に就寝・起床
- 1日7〜8時間の睡眠
- 夜間のスマホ・カフェインを控える
- 昼夜逆転を避ける
睡眠不足は躁状態の引き金になるだけでなく、脳の修復機能も妨げます。睡眠は最良の脳のメンテナンスです。
④適度な運動(海馬の神経新生)
運動、特に有酸素運動は、海馬の神経新生を促進し、脳萎縮の予防に効果的です。
- 週に2〜3回、30分以上の有酸素運動
- ウォーキング・ジョギング・水泳
- 無理のない範囲で継続
- 躁状態の時は過度な運動を避ける
運動はBDNFを増加させ、神経細胞の生成・成長を促します。気分安定にも寄与する一石二鳥の対策です。
⑤バランスの取れた食事
食事も脳の健康に大きく影響します。
- オメガ3脂肪酸(青魚・くるみ)を積極的に摂取
- 抗酸化物質(緑黄色野菜・ベリー類・緑茶)
- ビタミンB群・ビタミンD
- トランス脂肪酸・過剰な糖質を控える
- 地中海食パターンが推奨される
⑥ストレス管理
慢性的なストレスはコルチゾールの過剰分泌を介して脳萎縮を進めます。
- 自分なりのストレス対処法を持つ
- リラクゼーション(深呼吸・瞑想・ヨガ)
- 信頼できる人との交流
- 趣味の時間を確保
- 無理な予定を避ける
- 必要に応じてカウンセリング
⑦アルコール・喫煙を控える
アルコールと喫煙は脳に直接的な悪影響を与えます。
- 【アルコール】脳萎縮を促進・睡眠の質を下げる・薬の効果を減弱
- 【喫煙】血管障害・酸化ストレスの増加
- 【カフェイン】過剰摂取を避ける
特にアルコールは双極性障害に関連する脳萎縮を加速させる重要な要因です。可能な限り控えましょう。
⑧脳を活性化する活動
脳は使うほど活性化します。日常的に脳を使う活動を取り入れましょう。
- 読書を習慣にする
- 新しいことを学ぶ(語学・楽器など)
- パズル・クロスワード
- 人との会話
- 日記をつける
「使わない機能は衰える」のが脳の特徴です。意識的に脳を活性化させる時間を作りましょう。
⑨定期通院
症状が安定していても、定期的な通院は欠かせません。
- 月1回以上の通院を継続
- 血液検査(リチウム血中濃度等)を定期的に
- 認知機能の変化を主治医と共有
- 薬の調整を継続的に
⑩家族・支援者との連携
一人で抱え込まず、家族・支援者と連携することが大切です。
- 家族と病気の情報を共有
- 再発サインを家族に伝える
- 訪問看護の活用
- 家族会・当事者会への参加
- ソーシャルワーカーへの相談
MRI検査について

通常の診療で受ける必要はあるか
結論から言うと、双極性障害の通常の診療ではMRI検査は必須ではありません。双極性障害の診断は症状や経過、心理検査などをもとに行われ、MRIで「脳のここが萎縮しているから双極性障害」と診断する段階には現状では至っていません。
ただし、研究レベルでは、MRIによる構造的脳画像研究が進んでおり、将来的にはMRI検査が双極性障害の客観的な診断やバイオマーカーとして活用される可能性があります。
検査でわかること・限界
MRI検査でわかることと限界について整理します。
- 【わかること】脳の構造・体積・血管の状態
- 【わかること】脳腫瘍・脳卒中・脳萎縮の有無
- 【わかること】認知症との鑑別の手がかり
- 【限界】個人レベルでの双極性障害の確定診断はまだ難しい
- 【限界】症状の軽重とMRI所見が必ずしも一致しない
- 【限界】萎縮があっても日常生活への影響は人それぞれ
「自分の脳はどうなっているのか知りたい」という気持ちは自然ですが、MRIだけで未来が決まるわけではないことを知っておきましょう。
受診したほうがよいケース
以下のような場合は、MRI検査を主治医に相談する価値があります。
- 急激な認知機能低下がある
- 認知症の家族歴がある
- 頭痛・しびれ・麻痺などの神経症状がある
- 既存の治療で改善しない
- 頭部の外傷歴がある
- 中高年で物忘れが顕著
ただ「双極性障害だから不安」というだけでMRIを希望しても、保険適用外となることがあります。具体的な必要性を主治医と相談しましょう。
過度に不安にならないために
不安自体が脳に悪影響
「脳が萎縮するかもしれない」と過度に不安になることは、それ自体が脳に悪影響を与えます。
- ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌増加
- ストレスホルモンが海馬を傷つける
- 睡眠の質が低下
- 自律神経の乱れ
- 精神症状の悪化
つまり、過度な不安は、皮肉なことに脳萎縮を進める方向に働いてしまうのです。「正しく恐れる、正しく予防する」というバランスが何より大切です。
「萎縮=人格変化」ではない
「脳が萎縮する」と聞くと、人格が変わる・能力が落ちる・認知症になる、といったイメージを抱く方が多いですが、これは正確ではありません。
- 双極性障害の脳萎縮は微細な体積の変化
- 見た目や人格が大きく変わるレベルではない
- 適切な治療で日常生活は十分に送れる
- 社会で活躍している方も多くいる
- 認知症のように進行するわけではない
脳萎縮は「対処可能な医学的所見の一つ」と捉えましょう。それで人生が決まるわけではありません。
治療を続ければ希望がある
最後に最も伝えたいメッセージは、「治療を続ければ希望がある」ということです。
- リチウム等の薬剤で脳萎縮が改善する
- 早期治療で予後が大きく変わる
- 生活習慣の改善で進行を防げる
- 多くの方が長く健康的に生活している
- 研究は日々進歩している
「双極性障害=脳が崩壊していく病気」ではありません。「適切なケアを続ければコントロールできる病気」です。希望を持って、できることを一つずつ積み重ねていきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 双極性障害と診断されたら脳が萎縮していくのは確実ですか?
いいえ、確実ではありません。確かに研究では脳萎縮が報告されていますが、すべての双極性障害の方が萎縮するわけではなく、また萎縮しても進行性ではありません。適切な治療(特にリチウム)を続けることで、萎縮を防いだり改善したりすることが可能です。早期治療と継続治療が脳を守る最良の方法です。
Q2. リチウムを飲んでいれば脳萎縮を防げますか?
リチウムには神経保護作用があり、脳萎縮を防いだり改善したりする効果が報告されています。ただし、リチウムだけで完全に予防できるわけではなく、生活習慣・再発予防・ストレス管理など総合的な対策が必要です。リチウムの適応がある方は、医師の指示に従って服薬を継続することが脳を守ることにつながります。
Q3. 脳萎縮は元に戻りますか?
完全に元通りになるかは個人差がありますが、適切な治療によって萎縮が改善・正常化することが報告されています。特にリチウム服用者では、感情制御に関わる前部帯状回の体積が正常化するという研究結果があります。「萎縮=不可逆」ではないので、希望を持って治療を続けましょう。
Q4. 認知症になってしまうのが心配です。
双極性障害の脳萎縮は認知症とは異なる性質のものです。認知症は進行性の脳変性疾患ですが、双極性障害の脳萎縮は治療で安定・改善が可能です。ただし、治療を中断したり再発を繰り返したりすると、長期的には認知機能低下のリスクが上がる可能性があるとも指摘されています。継続的な治療と健康的な生活習慣で、将来的な認知症リスクも下げられます。
Q5. MRI検査を受けたほうがいいですか?
通常の双極性障害の診療ではMRIは必須ではありません。ただし、急激な認知機能低下、神経症状(頭痛・しびれ・麻痺)、頭部外傷歴、認知症が疑われるような物忘れがある場合は、主治医に相談してMRI検査を検討する価値があります。「脳の状態を確認したい」という不安からの希望は保険適用外となることが多いので、主治医とよく相談してください。
Q6. 自分でできる脳萎縮の予防策は何ですか?
以下の対策が有効です:①服薬の継続(特にリチウム)、②再発を予防する、③規則正しい睡眠、④週2〜3回の有酸素運動(海馬の神経新生を促進)、⑤バランスの取れた食事(オメガ3・抗酸化物質)、⑥ストレス管理、⑦アルコール・喫煙を控える、⑧脳を活性化する活動(読書・新しいことの学習)、⑨定期通院、⑩家族・支援者との連携。これらを総合的に実践することで、脳の健康を守れます。
Q7. 治療を始めるのが遅かったら、もう手遅れですか?
決して手遅れではありません。確かに早期治療が予後を良くするのは事実ですが、いつから始めても治療の効果はあります。今からできる対策(服薬継続・再発予防・生活習慣改善)を実行することで、これ以上の進行を防ぎ、改善も期待できます。「手遅れだから」と諦めるのではなく、「今からできることをする」という前向きな姿勢が、あなたの未来を変えます。主治医とよく相談し、できることから始めましょう。
まとめ
双極性障害と脳萎縮について、重要なポイントをおさらいします。
- 双極性障害では確かに脳萎縮が報告されている
- ただし不可逆ではなく、治療で改善する可能性がある
- 特にリチウムを服用すると萎縮が正常化する報告がある
- 萎縮しやすい部位は前頭前野(背外側前頭前皮質・前帯状皮質)・海馬・扁桃体
- 山口大学の研究で1531人のMRIから双極性障害特有の萎縮パターンが確認
- 原因は神経伝達物質異常・キンドリング現象・ストレス・炎症・毛細血管障害の5つ
- 認知症とは異なり進行性ではない
- 対策は服薬継続・再発予防・睡眠・運動・食事・ストレス管理など10項目
- MRI検査は通常診療では必須ではない
- 過度な不安は脳に悪影響を与える(コルチゾール分泌)
- 「萎縮=人格変化・能力低下」ではない
- 治療を続ければ希望がある
「双極性障害で脳が萎縮する」という言葉に強い不安を感じている方へ——どうか、その不安を和らげ、できることに目を向けてください。脳萎縮は確かに報告されている事実ですが、それは「治療できないもの」ではなく、「適切なケアで対処できるもの」です。
リチウムなどの治療薬を継続し、再発を予防し、健康的な生活習慣を心がける。それだけで、あなたの脳の健康を守ることができます。多くの双極性障害の方が、治療を続けながら長く充実した人生を歩んでいます。あなたもその一人になれます。
正しい知識を武器に、過度な恐怖に振り回されることなく、自分のペースで治療と予防に取り組んでいきましょう。あなたの未来は、あなたが今からできることで大きく変わります。
双極性障害でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
監修者
院長 根木 淳
愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手金融機関に勤務。2005年、秋田大学医学部卒業後、名古屋市立大学医学部精神科に入局。八事病院、三重県立子ども心身発達医療センターなどで研鑽を積む。京都大学医学部大学院とfMRIによる精神症状の脳機能の共同研究を経て慶應義塾大学大学院精神・神経科に入局。東京大学工学系研究科と連携して自動車運転の認知機能と安全性についての研究を行う。大学病院での診療、戸田病院、秋元病院、ガーデンクリニックなどでの診療業務に併行して、外資系及び国内大手IT企業、外資系大手コンサルティングファーム、テレビ・インターネット通販企業、都市銀行、国内大手証券会社、総合商社、特許翻訳・知財コンサル系企業、建設コンサルタント企業、広告代理店、大手旅行代理店、独立行政法人(公的法務支援機関)、大手不動産、大手企業信用調査会社、グローバルEC系企業、大手アパレル企業、国内最大手スーパーなど、都心大企業を中心に50社以上の産業医として企業のメンタルヘルスに従事。令和2年5月、北越谷駅前さくらメンタルクリニック院長に就任。併行して産業医業務に従事している。 【資格・所属学会など】 日本精神神経学会専門医・指導医 精神保健指定医 日本医師会認定産業医 日本老年精神医学会専門医・指導医