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気がつくと髪の毛を抜いてしまっている、やめたいのにやめられない――そんな「髪の毛を抜く癖」に悩んでいる方は、思っている以上に多くいらっしゃいます。この癖は「抜毛症(ばつもうしょう)」と呼ばれる精神疾患の一つであり、単なる「悪い癖」や意志の弱さの問題ではありません。ストレスや不安が深く関わっているケースが多く、適切な治療によって改善が期待できる病気です。この記事では、髪の毛を抜く癖の正体である抜毛症について、その原因や症状の特徴、治し方、受診の目安までを、専門的な視点からわかりやすく解説します。
髪の毛を抜く癖は「抜毛症」という病気の可能性がある
髪の毛を抜く癖が繰り返され、自分の意志ではやめられない状態が続いている場合、それは「抜毛症(トリコチロマニア)」と呼ばれる精神疾患に該当する可能性があります。抜毛症はDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)において、強迫症および関連症群に分類されています。
髪の毛を抜く癖というと「意志が弱いだけ」「やめようと思えばやめられるはず」と考えてしまいがちですが、抜毛症は脳の衝動制御に関わる機能の問題が背景にあるとされており、自力でコントロールすることが非常に難しい疾患です。発症率は大まかに0.6〜3.4%程度とされ、決してまれな病気ではありません。女性に多くみられる傾向がありますが、男性も発症する可能性があります。
抜毛症の2つのタイプ
髪の毛を抜く癖には、大きく分けて「無意識型」と「意識型」の2つのパターンがあります。無意識型は、テレビを見ているときや勉強中、スマートフォンを操作しているときなど、何か別のことに集中している最中に、気づかないうちに髪の毛を抜いてしまうタイプです。自分では抜いている自覚がないため、抜けた髪の毛が散らばっているのを見て初めて気づくというケースもあります。
一方、意識型は、髪の毛を抜く直前に何とも言えない不安や緊張感がこみ上げてきて、それを解消するように髪の毛を抜いてしまうタイプです。抜いた瞬間に一時的な安堵感や満足感が得られるため、不安が再び高まるとまた抜いてしまうという悪循環に陥りやすい傾向があります。両方のタイプが混在している方もいます。
髪の毛を抜く癖の原因――なぜ抜毛症になるのか

髪の毛を抜く癖が生じる原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。
ストレスや不安との深い関係
抜毛症の発症や悪化にもっとも深く関わっているとされるのが、精神的なストレスです。学校や職場での人間関係、受験や仕事のプレッシャー、家庭内の問題など、日常生活で感じるさまざまなストレスが引き金となることがあります。髪の毛を抜く行為は、たまったストレスや不安を一時的に解消する「対処行動」として機能してしまうため、ストレスが続くかぎり繰り返されやすくなります。
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脳の機能と衝動制御の問題
抜毛症は、強迫性障害と同じカテゴリーに分類されていることからもわかるように、脳の衝動制御に関わる機能の問題が背景にあると考えられています。脳内の神経伝達物質(特にセロトニン)のバランスの乱れが関与しているとする研究もあり、「やめたいのにやめられない」という状態は、意志の弱さではなく脳の機能的な問題に起因する可能性があります。
発症しやすい年齢と環境的要因
抜毛症は通常、20代までの若い年代に発症することが多く、特に10〜13歳頃の発症が目立ちます。両親の第一子に多いという報告もあります。また、幼少期の家庭環境(過度なしつけや過保護、無関心な養育環境、家族間の不和など)が発症リスクを高める可能性も指摘されています。ただし、特定の要因だけで発症するわけではなく、遺伝的素因と環境的要因が複合的に絡み合っていると考えられています。
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髪の毛を抜く癖がもたらす影響

髪の毛を抜く癖を放置すると、身体面と精神面の両方にさまざまな影響が及ぶ可能性があります。
頭髪・頭皮への影響
繰り返し髪の毛を抜くことで、頭皮に炎症が生じたり、毛根が損傷したりする場合があります。慢性的に続くと、毛根の再生能力が低下し、抜いた部分の髪が生えにくくなる可能性もあります。また、特定の部分だけ髪が薄くなったり、不規則な脱毛部位が目立つようになったりすることで、外見上の変化が気になり始めるケースも少なくありません。
精神面・社会生活への影響
髪の毛を抜く癖がやめられないことへの罪悪感や自己嫌悪は、精神的な負担を大きくします。脱毛部位を隠すために帽子やウィッグを使ったり、外出を避けたりするようになると、社会生活にも支障が出てくる可能性があります。また、抜毛症が長期化すると、うつ病や不安障害を併発するリスクが高まるとも指摘されています。周囲に相談しにくい悩みであるため、一人で抱え込んでしまう方も多いのが現状です。
髪の毛を抜く癖の治し方――抜毛症の治療法
髪の毛を抜く癖である抜毛症には、いくつかの有効な治療法があります。自力でやめることが難しい場合は、専門家のサポートを受けながら取り組むことが改善への近道です。
認知行動療法(習慣逆転法)
抜毛症の治療においてもっとも効果が認められているのが、認知行動療法の一種である「習慣逆転法(ハビット・リバーサル・トレーニング)」です。この方法では、まず自分が髪の毛を抜いてしまう状況や引き金となるきっかけを詳しく把握します。そのうえで、抜毛の衝動が生じたときに、別の行動(こぶしを握る、ストレスボールを握る、手を組むなど)に置き換える練習を行います。
髪の毛を抜く癖がどのような場面で起きやすいのかを記録する「セルフモニタリング」も、治療の重要な要素です。自分の行動パターンを客観的に把握することで、衝動に対するコントロール力を高めていくことが期待できます。
薬物療法
抜毛症に対しては、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やクロミプラミンなどの抗うつ薬が有効なケースがあるとされています。これらの薬は、脳内のセロトニンの働きを調整することで衝動性を抑え、髪の毛を抜く癖のコントロールをサポートする効果が期待されます。
ただし、薬物療法だけで完全に症状がなくなるとは限らず、認知行動療法と併用することでより効果的な改善が見込まれるとされています。薬の種類や用量は個人によって異なるため、医師と相談しながら治療を進めることが大切です。
環境調整と周囲のサポート
特にお子さんの場合、髪の毛を抜く癖を見つけても叱ったり無理にやめさせようとしたりせず、「一緒に治そう」という寄り添いの姿勢で接することが重要です。抜毛の背景にある不安やストレスの原因を理解し、安心できる環境を整えることが、回復への大切な土台となります。
また、抜毛が起きやすい時間帯や状況を把握し、その場面で手を忙しくする工夫(手芸、パズル、楽器演奏など)を取り入れることも、日常生活の中で行える有効なアプローチです。
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髪の毛を抜く癖が気になったら専門家に相談を
髪の毛を抜く癖がやめられず、脱毛部位が目立つようになってきた、抜毛をやめたいのにコントロールできない、日常生活に影響が出ているといった場合は、心療内科や精神科への相談を検討されてはいかがでしょうか。抜毛症は皮膚科を受診される方もいますが、心理的な要因が深く関わる疾患であるため、心療内科・精神科での評価と治療が望ましいケースが多くあります。
受診の際には、いつ頃から髪の毛を抜く癖が始まったか、どのような状況で抜いてしまうことが多いか、ストレスや不安を感じている出来事はあるかなどを医師に伝えられるよう整理しておくとスムーズです。抜毛症は適切な治療によって改善が期待できる疾患であり、「こんなことで受診していいのだろうか」と悩む必要はありません。
まとめ
髪の毛を抜く癖がやめられない状態は、「抜毛症(トリコチロマニア)」と呼ばれる精神疾患の可能性があります。意志の弱さや性格の問題ではなく、ストレスや脳の衝動制御の問題が背景にある治療可能な病気です。放置すると頭髪や頭皮へのダメージだけでなく、精神面や社会生活にも影響が及ぶおそれがあります。
治療としては、認知行動療法(習慣逆転法)と薬物療法が有効とされており、両方を組み合わせることでより効果的な改善が期待できます。周囲の理解と環境調整も回復を支える重要な要素です。髪の毛を抜く癖に悩んでいる方は、一人で抱え込まず、まずは心療内科や精神科に気軽にご相談ください。専門家のサポートを受けることが、この癖から解放されるための大切な第一歩となるでしょう。
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