クリニックブログ
「家族が突然別人のように豹変して、暴言を浴びせてくる」「普段は優しい人なのに、躁状態になると手がつけられなくなる」「自分も傷つき、どう接していいかわからない」——双極性障害の方を身近に持つ方の中には、このような苦悩を抱えている方が少なくありません。
毎日のように投げつけられる鋭い言葉、怒鳴り声、時には物を投げられたり、身体的な暴力を振るわれたり。支えたい気持ちと、自分自身が傷ついてしまう現実の狭間で、心が折れそうになる方もいらっしゃるでしょう。
まず、お伝えしたいことがあります。双極性障害の方の攻撃的な言動は、本人の「性格」や「意図」によるものではなく、病気の症状によって引き起こされているものです。もちろん、だからといって「我慢しなさい」ということではありません。病気の症状として理解した上で、自分自身の安全と心を守りながら、適切な距離感で関わっていく——その方法を知ることが、何よりも大切です。
この記事では、双極性障害で攻撃的になる原因・状態別の攻撃性の現れ方・家族ができる10の接し方のコツ・身の危険を感じたときの緊急対応・家族自身のセルフケアまで、精神科医の視点から網羅的に解説します。あなた自身を守りながら、大切な人との関係を保つヒントにしてください。
双極性障害で攻撃的になるのは病気の症状
本人の性格や意図ではない
双極性障害の方が攻撃的になるのは、「本人の性格が悪い」「わざと傷つけようとしている」ということではありません。脳の神経伝達物質のバランスが崩れ、感情のコントロール機能が一時的にうまく働かなくなっているために生じる症状です。
実際、双極性障害の攻撃性に関する研究では、うつ病患者や健常者と比べて、双極性障害の一部の状態では、怒りや衝動性が強くなりやすいことが報告されています。これは本人の人間性の問題ではなく、疾患そのものの特徴なのです。
普段は穏やかで優しい性格だった人が、躁状態になると別人のように暴言を吐く——これは「本当の姿が現れた」のではなく、「病気によって行動が変化している」状態です。病気が治まれば、本来の優しい姿に戻ることがほとんどです。
「病気の部分が言わせている」という理解
家族が受ける暴言や攻撃を乗り越える上で、最も大切なのは「症状の影響で感情のコントロールが難しくなっている」という認識を持つことです。本人の全人格ではなく、病気の症状の一部として受け止めることで、心の傷が少しだけ和らぎます。
糖尿病の方が高血糖で意識がもうろうとしたとき、その言動を「その人の本性」とは考えないはずです。同じように、双極性障害の躁状態での攻撃的言動も、「病気が起こしている一時的な症状」と捉えるのが正しい理解です。
「その人」と「病気」を分けて捉えることが、家族の心を守る第一歩です。攻撃する人の中にも、本来の優しい姿が残っていることを忘れないでください。
本人も後で自責することが多い
双極性障害の方の多くは、躁状態・混合状態が落ち着いた後、自分の攻撃的な言動を振り返って深く後悔します。「あのとき何であんなことを言ってしまったのか」「大切な人を傷つけてしまった」と自分自身を責めるのです。
この自責の念がうつ状態のきっかけになり、「躁状態で周囲を傷つけた→うつ状態で自分を責める」という悪循環に陥ることもあります。本人もまた、病気に振り回されて苦しんでいることを理解しておきましょう。
双極性障害で攻撃的になる4つの原因

①躁状態・軽躁状態の高揚感と易怒性
双極性障害で最も攻撃的になりやすいのが、躁状態・軽躁状態です。この時期の特徴として以下があります。
- 気分の異常な高揚と過剰な自信
- 「自分は何でもできる」という万能感
- 他人の意見に耳を貸せなくなる
- 思い通りにならないとすぐに怒る(易怒性)
- 小さな批判や指摘を過剰に攻撃と受け取る
- 判断力・抑制機能の低下
躁状態では「自分は正しい、相手が間違っている」という確信が強くなり、反対意見を述べる相手を「敵」とみなしてしまうため、激しい攻撃につながります。
②混合状態の不安定さ
躁状態とうつ状態の症状が同時に現れる「混合状態」は、最も攻撃性が強くなりやすい状態です。気分は落ち込んでいるのにエネルギーだけが高い状態で、イライラや焦燥感が極端に強くなります。
混合状態では、絶望感と攻撃衝動が同時に存在するため、自分にも他人にも危険な言動が出やすくなります。自傷・他害のリスクが最も高い状態であり、本人の苦痛も最大です。
③脳内神経伝達物質のバランス異常
双極性障害では、脳内のドーパミン・セロトニン・ノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスが崩れています。特にセロトニンは感情のコントロール・衝動抑制に関わる物質で、これが不足すると怒りや攻撃性が抑えられなくなります。
つまり、攻撃的な言動は「脳の抑制機能が働いていない」状態であり、本人の努力だけでは制御しきれないのです。薬物療法で神経伝達物質のバランスが整うと、攻撃性が大きく軽減することが知られています。
④ストレス・環境要因
双極性障害の症状は、環境のストレスで悪化することがあります。職場や家庭でのプレッシャー、否定的な言葉、孤立感などは、感情の不安定さを強める要因になります。
特に信頼している相手からの批判や拒絶を感じたとき、強い防衛反応として攻撃的な態度が現れることもあります。これは「自分を守るための反応」であり、本当は「助けて」というSOSでもあるのです。
具体的にどんな攻撃的言動が出るのか
言語的攻撃性(暴言・批判・大声)
最もよく見られるのが、言語的な攻撃性です。
- 普段は言わないような強い暴言を吐く
- 相手の欠点を執拗に責める
- 過去の失敗を持ち出して責める
- 声を荒げる・怒鳴る
- 人格を否定する発言
- 皮肉・嫌味・批判が止まらない
- 冗談のつもりで相手を深く傷つける発言をする
家族・パートナーなど、心を許している相手ほど、ブレーキなしで言葉をぶつけてしまう傾向があります。受ける側の心の傷は、時間をかけて蓄積していきます。
物理的攻撃性(物を投げる・暴力)
より深刻なのが、物理的な攻撃性です。
- 物を投げる・壊す
- ドアを強く閉める・叩く
- 家具を蹴る
- 相手を押す・掴む
- 殴る・叩く
- 武器になりうるものを振り回す
物理的な暴力は、病気の症状であっても絶対に許容すべきではありません。身の危険を感じたら、迷わず避難し、警察や精神科救急に連絡してください。本人の治療のためにも、医療的な介入が必要なサインです。
深夜の電話・SNSでの攻撃
躁状態では睡眠欲求が減少するため、深夜や早朝でも平気で電話をかけたり、LINEを大量に送ったりすることがあります。
- 深夜2〜3時の着信・メッセージ攻撃
- SNSでの執拗な批判投稿
- 長文のメールを連続で送信
- ブロックされると別アカウントから連絡
- 公開の場で相手を晒す
こうしたデジタル攻撃も、病気の症状として現れることがあります。必要に応じて、通知オフ・着信拒否・ブロックで自分を守ることも大切です。
家族への尊大な態度・高圧的な言動
双極性障害の躁状態では、家族に対して尊大・高圧的な態度を取ることがあります。
- 命令口調になる
- 「お前は何もわかっていない」と見下す
- 家族の意見を一切聞かない
- 家族を召使いのように扱う
- 過剰な要求をする
- 感謝の言葉がなくなる
いつも対等だった関係が、一方的な上下関係になったように感じる——これも躁状態の症状です。関係が急変したことに家族は深く戸惑いますが、これも病気の表れであることを理解しましょう。
状態別の攻撃性の現れ方
双極性障害の状態によって、攻撃性の現れ方は異なります。状態を見極めることで、適切な対応ができます。
|
状態 |
攻撃性の特徴 |
周囲の対応の基本 |
|---|---|---|
|
躁状態 |
尊大・高圧的・暴言・身体的暴力のリスク |
反論せず距離を取る・受診・入院検討 |
|
軽躁状態 |
イライラ・皮肉・批判的発言・多弁 |
刺激せず様子を見る・主治医に相談 |
|
混合状態 |
焦燥感・不安・自暴自棄・自傷他害のリスク |
最も注意。早急に受診・自殺リスクも確認 |
|
うつ状態 |
イライラ・当たり散らし・愚痴 |
寄り添う・休養を支える |
|
寛解期 |
通常は穏やか。治療中断で再燃の可能性 |
再発サインに注意・服薬継続を支える |
特に注意したいのが「混合状態」です。焦燥感とエネルギーと絶望感が同時に存在するため、自傷・他害のリスクが最も高い状態です。普段と違う激しいイライラ・衝動性が見られたら、速やかに主治医に連絡しましょう。
また、寛解期でも治療を中断すると再燃することがあります。「最近薬を飲んでいない」「通院をサボっている」様子があれば、主治医と連携して再受診・服薬再開を促すことが大切です。
家族・周囲ができる接し方10のポイント
双極性障害の方が攻撃的になったときの接し方のポイントを、10の項目にまとめました。できるものから試してみてください。
①感情的に反論しない
攻撃的な言葉を浴びせられると、反論したくなるのは自然な反応です。しかし、感情が高ぶっている最中は、理屈で説得しようとしても難しいことが多いです。
「そうなんだね」「わかった」と最小限の相槌で受け流すのが基本です。言い争いに発展しないよう、できるだけ早く話題を終わらせましょう。
②病気の症状と切り離して受け止める
「今、病気の部分が言わせているんだ」と心の中で唱えてみてください。相手の言葉をその人の本心・本音として真に受けるのではなく、「病気が言わせているセリフ」として距離を取って受け止めます。
これは冷たい対応ではなく、自分の心を守るための大切な技術です。病気の症状を「その人の本質」と同一視しないことが、関係を保つ上で重要です。
③その場を離れる勇気を持つ
攻撃が激しくなってきたら、その場を離れる選択も大切です。「少し休ませてね」「後でまた話そう」と伝えて、別の部屋に移動する・外出するなど、物理的に距離を取ります。
離れることは「逃げ」ではなく、エスカレートを防ぐための賢明な対応です。双方の気持ちが落ち着いてから話し合うほうが、建設的な対話ができます。
④過去の言動を蒸し返さない
「前も同じことを言ってたよね」「この前もそうだった」と過去の攻撃性を持ち出すと、本人はさらに怒りを強めます。また、うつ状態に入った時に強い自責感を誘発し、症状を悪化させることもあります。
過去の出来事は、本人が落ち着いた寛解期に、冷静に話し合う場を設けましょう。感情が高ぶっている最中には触れないのが鉄則です。
⑤言葉を真に受けすぎない
「お前なんか要らない」「離婚する」「出て行け」——躁状態で投げつけられる激しい言葉を、すべて真に受けてしまうと心が折れてしまいます。これらは病気の症状であり、本人の本心とは限りません。
寛解期に戻った本人は、「なぜあんなことを言ったのか」と深く後悔していることが多いのです。嵐が過ぎるのを待つ気持ちで、言葉に翻弄されすぎないようにしましょう。
⑥攻撃後の自責には寄り添う
躁状態・混合状態が落ち着いた後、本人が「ひどいことを言ってごめん」「自分が嫌になる」と自責する時は、寄り添うことが大切です。
- 「病気だから仕方ないよ」と責めない
- 「あなたも苦しいんだね」と受け止める
- 過剰に慰めすぎない(逆に罪悪感を増すことも)
- 一緒に次の対策を話し合う
本人も病気に苦しんでいることを理解する姿勢が、関係の回復につながります。
⑦事前に危険なサインを共有する
寛解期のうちに、本人と家族で「躁状態・混合状態になりそうなサイン」を共有しておきましょう。
- 睡眠時間が減っている
- 口数が明らかに多くなっている
- イライラが目立つ
- 衝動的な買い物をしている
- 人との約束を詰め込みすぎている
サインが出たら早めに主治医に連絡し、薬の調整や休息を促すことで、攻撃性のピークを避けられることがあります。
⑧受診・服薬を促す
攻撃的な言動が強い時期は、治療の見直しが必要です。主治医に相談し、薬の調整をしてもらうことで、症状が大きく軽減することがあります。
本人が「自分は病気じゃない」と拒否する場合は、「あなたが心配だから一緒に行こう」「私が主治医と話したいから付き合って」と誘う方法もあります。
⑨家族会議で対応方針を決める
一人の家族がすべてを背負わないよう、他の家族と協力して対応方針を決めましょう。
- 攻撃的になった時の対応を統一する
- 役割分担をする(一人だけが標的にならないように)
- 緊急時の連絡先を共有する
- 定期的に家族間で話し合う
家族内で一貫した対応を取ることで、本人の混乱も減らせます。
⑩主治医・支援機関と連携
家族だけで対応しようとせず、専門家の力を借りましょう。
- 主治医に家族から状況を伝える
- 精神保健福祉センターに相談
- 家族会に参加する
- 訪問看護を導入する
- ソーシャルワーカーに相談
「家族からの情報」は主治医の診断・治療方針決定に非常に重要です。本人が自分の状態を正確に伝えられないこともあるため、家族の視点からの情報提供は治療に大きく貢献します。
身の危険を感じたときの緊急対応

身の安全を最優先に
病気の症状であっても、身の危険を感じる状況では、家族の安全確保が最優先です。「病気だから我慢しなければ」と考えすぎないでください。
- 殴られる・蹴られるなど身体的暴力がある
- 物を投げつけられる
- 武器になりうるものを持ち出す
- 「殺す」「殺される」など発言がある
- 自傷行為が見られる
- 子どもに危険が及ぶ可能性がある
これらの状況では、迷わず避難してください。安全な場所(別の部屋・家の外・実家・ホテル等)に移動し、状況を整理しましょう。
一時的に別居する選択肢
家庭内の緊張が高まりすぎている場合、一時的な別居も有効な選択肢です。
- 実家や親戚宅に一時避難
- ホテル・ウィークリーマンションを利用
- DVシェルター(状況次第で利用可能)
- 子どもの安全のため母子で避難
物理的な距離を取ることで、双方の気持ちが落ち着き、冷静な対応ができるようになります。別居は「関係の終わり」ではなく、「一時的なクールダウン」と位置付けて検討しましょう。
警察に通報するケース
身体的暴力や生命の危険がある場合は、迷わず110番通報してください。警察への通報をためらう家族は多いですが、適切な対応の一つです。「家族を警察沙汰にすることに罪悪感がある」と感じるかもしれませんが、あなたの命と安全は何より大切です。緊急時の通報はあなたを守るだけでなく、本人に必要な医療的介入につながる重要な判断です。
警察が介入することで、精神科救急につなげられることもあります。本人を犯罪者扱いするのではなく、医療的ケアにつなげるためのルートと捉えましょう。
精神科救急に連絡する
夜間・休日でも対応してくれる精神科救急があります。
- 【精神科救急情報センター】各都道府県に設置
- 【精神保健福祉センター】平日日中の相談
- 【保健所】地域の精神保健相談
- 【主治医】診療時間外でも緊急連絡先を確認しておく
事前にこれらの連絡先をリストアップしておき、緊急時にすぐ連絡できるようにしましょう。
精神科搬送サービスの利用
本人が暴れていて医療機関への連れて行きが困難な場合、民間の精神科搬送サービスを利用する方法もあります。専門のスタッフが対話を通じて本人の意思で受診につなげるサポートをしてくれます。
ただし民間サービスは費用が高額になることもあります。まずは主治医・精神科救急・保健所への相談を優先し、それでも対応困難な場合の選択肢として検討しましょう。
医療保護入院の検討
本人が受診を拒否し、かつ自傷他害のおそれが高い場合、家族の同意による「医療保護入院」という制度があります。
- 精神保健指定医の診察が必要
- 家族(配偶者・親・子など)の同意で入院可能
- 任意入院と違い、本人の同意は必須ではない
- 治療により症状が安定すれば退院できる
医療保護入院は、本人の人権に配慮した厳格な制度ですが、家族と本人の命を守るための大切な選択肢です。詳細は主治医や精神保健福祉センターに相談しましょう。
本人が受診・服薬を拒否するときの対応
なぜ拒否するのか
双極性障害の躁状態では、本人が「自分は病気ではない、調子がいい」と感じるため、受診や服薬を拒否することがよくあります(病識がない状態)。
- 「今が最も調子がいいのに治療など不要」
- 「薬を飲むと鈍くなる」
- 「自分は普通だ、周りが過剰反応している」
- 「精神科に行くのは嫌だ・恥ずかしい」
これらは病気の症状そのものであり、無理に説得しても効果がないことが多いです。
無理に連れて行かない
本人が強く拒否している状態で、無理に病院に連れて行くのは逆効果です。
- 本人が「騙された」と感じて家族への信頼を失う
- 暴れて家族・医療者にケガを負わせる恐れ
- 今後の治療協力が得られなくなる
無理強いは避け、別のアプローチを検討しましょう。
家族だけで先に相談する(保健所・精神保健福祉センター)
本人を連れて行くのが難しい場合、家族だけで先に専門家に相談する方法が有効です。
- 保健所の精神保健相談
- 精神保健福祉センター
- 主治医のいる病院の家族相談
- 地域の支援機関
これらの機関では、本人を受診につなげる具体的な方法をアドバイスしてくれます。家族の疲弊についても相談できます。
信頼できる第三者から勧めてもらう
家族の言うことは聞かなくても、信頼している第三者の言葉なら聞き入れることがあります。
- 親戚・兄弟姉妹
- 親しい友人
- 上司・同僚
- かかりつけ内科医
- 訪問看護師
「医療機関に行ってみないか」と第三者から言ってもらうことで、本人が素直に受け入れるケースもあります。
家族のセルフケア

一人で抱え込まない
双極性障害の方の攻撃性に日々さらされる家族の心身は、想像以上に消耗します。一人で抱え込むと、家族自身がうつ病などの精神疾患を発症するリスクもあります。
同居家族だけでなく、他の親族・友人・支援機関に悩みを打ち明けてください。話すだけでも心が軽くなります。
家族会・支援団体の活用
双極性障害の当事者家族が集まる家族会・支援団体があります。同じ悩みを持つ人と話せることは大きな救いになります。
- 【日本双極症協会(旧:日本うつ病学会 双極症部会関連)】当事者・家族の団体
- 【みんなねっと(全国精神保健福祉会連合会)】精神疾患の家族会
- 【ノーチラス会】双極性障害の当事者・家族
- 【地域の家族会】精神保健福祉センター等で紹介可能
同じ経験をした人の話を聞くだけで、「自分だけじゃない」「この苦しみはおかしいことではない」と感じられます。
必要ならカウンセリング
家族自身のメンタルケアのために、カウンセリングを利用するのもおすすめです。双極性障害の家族・パートナーとして抱える苦しみ・怒り・悲しみを専門家に話すことで、心の整理ができます。
主治医に相談すれば、家族向けの支援リソースを紹介してくれることもあります。「病人の家族だから我慢しなければ」と考えず、あなた自身のケアも優先してください。
距離を取る・離れることも選択肢
状況によっては、関係から距離を取る、場合によっては別れる・離婚するという選択肢もあります。
- 何年も攻撃的な言動が続いている
- 治療を拒否し続けている
- 身体的暴力が繰り返されている
- 家族自身の心身が限界に達している
- 子どもへの影響が深刻
「病気だから見捨てられない」と自分を追い込み続ける必要はありません。あなた自身の人生と健康を守ることも、大切な選択の一つです。
共倒れを防ぐ
支える家族自身が心身を壊してしまうと、本人の治療にも悪影響が及びます。共倒れを防ぐために、次のことを意識してください。
- 自分の時間・趣味の時間を確保する
- 他の家族と役割分担
- 「完璧な家族」を目指さない
- 必要なら休養を取る(実家に帰るなど)
- 自分の健康診断・通院を怠らない
本人が「攻撃的な自分」に悩んでいる方へ
ここからは、双極性障害の当事者として「自分の攻撃的な言動」に悩んでいる方に向けて書きます。家族を傷つけてしまった後悔、自己嫌悪、自責の念に苦しんでいる方も多いでしょう。
自分を責めすぎない
躁状態・混合状態での攻撃的な言動は、あなたの意志や性格ではなく、病気の症状として起きたものです。全人格で自分を否定する必要はありません。
ただし、「病気のせい」と開き直るのも違います。病気の症状であることを認めつつ、治療と対策で次の発作を防ぐことに目を向けましょう。自責と開き直りの間の、建設的な向き合い方が大切です。
攻撃してしまう前の対処法(クールダウン)
自分が攻撃的になりそうと感じた時の対処法をいくつか持っておきましょう。
- その場を離れる(トイレ・別室・散歩)
- 深呼吸を10回する
- 水を飲む・冷たい水で顔を洗う
- 信頼できる人に電話する
- 頓服薬(医師から処方があれば)を使う
- 日記に怒りの気持ちを書き出す
「怒りのピークは6秒」と言われます。6秒をやり過ごす技術を身につけることで、攻撃的な言動を減らせます。
主治医に正直に話す
自分の攻撃性を主治医に隠さず話しましょう。「恥ずかしい」「申し訳ない」と感じるかもしれませんが、正確な情報こそが適切な治療につながります。
- 攻撃的になる頻度
- どんな言動をしてしまうか
- 家族が受けている影響
- 自分で制御できない感覚
主治医に相談することで、薬の調整・心理療法・アンガーマネジメントなど、攻撃性を軽減する方法を一緒に考えてもらえます。
家族に謝罪と説明をする
攻撃してしまった後、落ち着いたタイミングで家族に謝罪することは大切です。
- 「あの時ひどいことを言ってごめん」
- 「病気の症状だけど、あなたを傷つけたことは本当に申し訳ない」
- 「治療を続けて、できるだけ再発を防ぎたい」
病気のせいにして逃げるのではなく、誠実に向き合う姿勢が、家族との関係修復につながる大切な一歩になります。完璧でなくても、誠意を伝えることが大切です。
「病気の攻撃」と「DV」の線引き
病気の症状でも許容できない範囲がある
双極性障害の攻撃性は病気の症状ですが、だからといって「何を言われても我慢しなければならない」ということではありません。治療・通院・服薬が行われていないまま攻撃性が続く場合、それは「症状」というより「不適切な行動パターン」に近づいていきます。
|
比較項目 |
病気の症状としての攻撃性 |
DV(許容できない暴力) |
|---|---|---|
|
発生時期 |
躁・混合エピソード中が中心 |
特定のパターンで反復・寛解期も継続 |
|
本人の認識 |
後から自責・後悔する |
正当化・相手のせいにする |
|
治療への姿勢 |
治療意欲を持てる |
治療を拒否する傾向 |
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対象 |
その場に居合わせた人 |
特定の人(弱い立場の人)に集中 |
|
頻度・パターン |
エピソード期間のみ |
日常的・周期的に繰り返す |
|
対処 |
治療・医療的介入 |
避難・相談・保護 |
繰り返される・寛解期にも続く場合
以下のような場合は、純粋な「病気の症状」ではなく、より深刻な状況として捉える必要があります。
- 治療に積極的に取り組まない
- 攻撃後に自責せず、むしろ家族のせいにする
- 寛解期にも攻撃が続く
- 身体的暴力が繰り返される
- 暴力を正当化する発言がある
- 子どもへの影響がある
このような状況では、病気とDVが重なっている可能性があります。精神科医療と並行して、DV相談窓口・弁護士への相談も検討してください。
あなた自身の安全が最優先
繰り返しますが、あなた自身の身体的・精神的安全が何より大切です。
- 【DV相談ナビ】#8008(電話)
- 【よりそいホットライン】0120-279-338(24時間)
- 【配偶者暴力相談支援センター】各都道府県に設置
- 【女性相談センター】各自治体
- 【警察】110番(緊急時)
相談することで、別居・離婚・保護命令など、状況に応じた対応を提案してもらえます。病気の家族だからといって、耐え続ける義務はありません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家族の暴言がつらすぎて、もう耐えられません。離婚してもいいのでしょうか?
その気持ちを否定する人は誰もいません。双極性障害の家族を支え続けることは、本当に大変なことです。離婚は最終的な選択肢ですが、その前に一時的な別居・カウンセリング・家族会への参加など、他の選択肢も試してみてください。治療が進んで症状が安定すれば、関係が改善することもあります。ただし、身体的暴力が繰り返される・治療拒否が続く・子どもへの影響が深刻——このような場合は、離婚も十分検討に値する選択肢です。自分一人で抱え込まず、弁護士・カウンセラーに相談しましょう。
Q2. 躁状態の本人を精神科に連れて行きたいのですが、拒否されます。
無理強いは逆効果なので、以下の方法を試してみてください。①信頼できる第三者(親戚・友人)から勧めてもらう、②「睡眠の相談」など病気と直接関係ない切り口で受診を提案する、③家族だけで主治医・保健所・精神保健福祉センターに先に相談する。どうしても困難で、自傷他害のおそれが高い場合は、医療保護入院という制度もあります。まずは家族だけで相談窓口にアクセスしてみましょう。
Q3. 暴言を浴びると自分もうつ状態になってしまいます。どうすれば?
それは自然な反応です。毎日浴びる暴言は、確実に心を削ります。あなた自身もメンタルケアが必要な状態かもしれません。自分自身のカウンセリングを受ける、家族会で同じ境遇の人と話す、一時的に距離を置く、などの対策を検討してください。「支える側」も心のケアが必要なことを、決して忘れないでください。必要なら、あなた自身も精神科・心療内科を受診することも選択肢です。
Q4. 攻撃された後、本人が「ごめんね」と謝ってきます。また信じていいの?
躁状態・混合状態が過ぎた後の自責・謝罪は、本人の本心である可能性が高いです。「また信じる」という選択は、あなたの判断です。ただし、謝罪するだけで治療に取り組まない場合は、いずれまた同じことが繰り返されます。「ごめんねで済ませる」のではなく、「一緒に再発予防を考える」方向に話を持っていきましょう。通院・服薬の継続、生活リズムの管理、再発サインの共有など、具体的な対策を話し合うことが大切です。
Q5. 子どもが父親(または母親)の攻撃的な言動に怯えています。どう対応すべき?
子どもの安全と心の健康は最優先です。まず、子どもに「これは病気の症状で、あなたのせいではない」と伝えてあげてください。発達段階に応じて理解できるレベルで説明することが大切です。また、攻撃が激しい時期は子どもを親戚の家に避難させる・別の部屋に隔離するなど、子どもが直接の攻撃にさらされないよう配慮してください。スクールカウンセラー・児童精神科・子ども家庭支援センターに相談することも選択肢です。子どもの心のケアを忘れないでください。
Q6. 躁状態での攻撃で言われたことを、寛解期に本人と話し合ってもいいですか?
はい、寛解期に冷静に話し合うことは大切です。ただし、責める姿勢ではなく、「あの時こんなことがあって私も傷ついた。次に同じような状態になった時、どうしたらいいか一緒に考えたい」という建設的な姿勢で話しましょう。本人も寛解期には後悔していることが多いため、責任追及より「次の対策」に焦点を当てると、生産的な話し合いができます。必要なら家族療法・カップルカウンセリングを利用するのもおすすめです。
Q7. 私自身も限界で、家族の世話ができなくなりそうです。
あなたがそう感じるのは、限界まで頑張ってきた証です。まずは自分自身を大切にしてください。実家に帰る・しばらく距離を置く・友人宅に泊まる——物理的にも心理的にも離れる時間を作ることが必要です。その上で、訪問看護・ヘルパー・他の家族のサポートなど、あなた一人ではなく複数の手で支える体制を作りましょう。それでも難しい場合は、施設やグループホームなどの利用も選択肢です。「自分がいなければこの人はダメになる」と思い込まず、支援の輪を広げてください。あなたが倒れないことが、結果的に本人にとっても最善です。
まとめ
双極性障害の方の攻撃的な言動に悩む方へ、大切なポイントをおさらいします。
- 双極性障害の攻撃性は病気の症状であり、本人の性格ではない
- 本人も後で自責することが多い
- 躁状態・混合状態で特に攻撃性が強くなる
- 接し方の基本は「反論しない・真に受けすぎない・距離を取る」
- 寛解期に再発サインと対応方針を本人・家族で共有しておく
- 身の危険を感じたら避難・警察・精神科救急に連絡
- 本人が受診拒否の場合、家族だけで先に相談できる
- 医療保護入院という制度もある
- 家族のセルフケアは絶対に怠らない
- 家族会・支援団体を活用し、孤立しない
- 病気であっても、繰り返す身体的暴力は別問題。DV相談窓口へ
- あなた自身の安全と人生を守ることは、決して身勝手ではない
双極性障害の家族を支えることは、想像を絶する困難を伴います。しかし、正しい知識と適切な対応、そして何よりあなた自身のセルフケアを忘れなければ、乗り越えられる可能性があります。
一人で抱え込まないでください。主治医・保健所・精神保健福祉センター・家族会・支援団体——あなたを支える場所は必ずあります。自分を大切にしながら、病気とともに歩む道を、少しずつ模索していきましょう。
あなた自身の心と安全も、同じく大切にされるべき価値があります。そのことを、どうか忘れないでください。
双極性障害でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
監修者
院長 根木 淳
愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手金融機関に勤務。2005年、秋田大学医学部卒業後、名古屋市立大学医学部精神科に入局。八事病院、三重県立子ども心身発達医療センターなどで研鑽を積む。京都大学医学部大学院とfMRIによる精神症状の脳機能の共同研究を経て慶應義塾大学大学院精神・神経科に入局。東京大学工学系研究科と連携して自動車運転の認知機能と安全性についての研究を行う。大学病院での診療、戸田病院、秋元病院、ガーデンクリニックなどでの診療業務に併行して、外資系及び国内大手IT企業、外資系大手コンサルティングファーム、テレビ・インターネット通販企業、都市銀行、国内大手証券会社、総合商社、特許翻訳・知財コンサル系企業、建設コンサルタント企業、広告代理店、大手旅行代理店、独立行政法人(公的法務支援機関)、大手不動産、大手企業信用調査会社、グローバルEC系企業、大手アパレル企業、国内最大手スーパーなど、都心大企業を中心に50社以上の産業医として企業のメンタルヘルスに従事。令和2年5月、北越谷駅前さくらメンタルクリニック院長に就任。併行して産業医業務に従事している。 【資格・所属学会など】 日本精神神経学会専門医・指導医 精神保健指定医 日本医師会認定産業医 日本老年精神医学会専門医・指導医