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「双極性障害は一生治らない」——そんな言葉を目にして、絶望のような気持ちでこのページにたどり着いた方もいらっしゃるかもしれません。診断を受けたばかりの方、何度も再発を繰り返して疲れ果てている方、ご家族の病気に希望を見いだせずにいる方。それぞれに、重い気持ちを抱えていることと思います。
まず最初に、結論からお伝えします。双極性障害は「一生治らない病気」ではありません。適切な治療を続ければ、症状を安定させ、発症する前と変わらない日常生活を送ることが十分に可能な病気です。
確かに、双極性障害は「完治」(病気が完全になくなる状態)を目指すより、「寛解」(症状が安定した状態)を維持することを治療目標にする慢性疾患です。しかし、これは「高血圧」や「糖尿病」と同じ考え方であり、決して絶望的な病気ではありません。長期的に治療を続けた方の約24%が完全寛解に至るというデータもあります。
この記事では、「一生治らない」という言葉の本当の意味、寛解の可能性、再発を防ぐ方法、慢性疾患として付き合うコツを精神科医の視点から解説します。適切な支援や治療によって、将来の選択肢を広げていくことは十分可能です。
双極性障害は「一生治らない」は本当か
結論:適切な治療で寛解は十分可能
双極性障害は、適切な治療を継続することで症状をコントロールし、安定した生活を送ることが十分に可能な病気です。「治らない」というイメージを持つ方が多いのは、双極性障害が「完治」を目指すより「寛解」を目指す病気であることが正しく伝わっていないためです。
実際、多くの当事者が治療を続けながら仕事を持ち、家庭を築き、充実した人生を歩んでいます。双極性障害は、精神疾患の中でも治療法や対処法が比較的整っている病気であり、決して絶望すべきものではありません。
「完治」ではなく「寛解」を目指す病気
双極性障害が「一生治らない」と誤解される最大の理由は、医学における「完治」と「寛解」の違いが正しく理解されていないことです。
- 【完治(治癒)】病気が完全に治り、治療が不要な状態
- 【寛解】症状が安定し、日常生活に支障がない状態(治療は継続)
双極性障害の場合、現在の医学では「完治」は難しいとされていますが、「寛解」を維持することは多くの方で可能です。寛解状態であれば、仕事・家事・趣味など、双極性障害発症前と変わらない活動ができます。
管理可能な慢性疾患という考え方
双極性障害は、医学的には「慢性疾患」として位置づけられています。高血圧や糖尿病と同じように、治療を続けることで症状をコントロールし、通常の生活を送る——これが現代の双極性障害の治療の考え方です。
「一生治らない」という悲観的な捉え方ではなく、「上手に付き合っていく病気」「管理可能な病気」と捉えることで、心の負担は大きく変わります。実際、双極性障害の治療を長年続けている方の多くが、自分なりの付き合い方を見つけ、安定した日常を送っています。
「一生治らない」ではなく、「一生付き合っていく、管理可能な慢性疾患」。この考え方の転換が、希望への第一歩です。
「寛解」とは何か
完全寛解と部分寛解
双極性障害の「寛解」には、大きく分けて2つの段階があります。
- 【完全寛解】症状がまったくない状態が2ヶ月以上続いている状態。日常生活に支障なく、気分の波も穏やか
- 【部分寛解】一部の症状は残るものの、目立った症状がない状態。多少の波はあるが、社会生活は送れる
完治と寛解の違いを表で整理すると、以下のようになります。
|
比較項目 |
完治(治癒) |
寛解 |
|---|---|---|
|
状態 |
病気が完全に治った状態 |
症状が安定・コントロールできている状態 |
|
再発リスク |
基本的に再発しない |
服薬中止などで再発の可能性あり |
|
治療継続 |
不要 |
継続が必要 |
|
日常生活 |
普通に送れる |
普通に送れる |
|
双極性障害の目標 |
現時点では困難 |
達成可能な治療目標 |
部分寛解の段階から、治療を続けることで完全寛解を目指していく——これが双極性障害治療の基本的な流れです。
寛解状態でも日常生活は送れる
寛解状態にある方は、病気ではない方と見た目上ほぼ変わらない生活を送ります。仕事や学業を続け、結婚して家庭を持ち、友人と楽しい時間を過ごすことも十分可能です。
ただし、寛解状態を維持するためには「治療の継続」が欠かせません。服薬を続け、定期的に通院し、生活リズムを整え、ストレス管理をする——これらを続けることで、寛解が長期間維持できます。
寛解到達率の長期追跡データ(約24%が完全寛解)
双極性障害の予後について、長期追跡調査のデータがあります。適切な治療を受けた患者さんの約24%が完全寛解に至ったとの報告があります。
「24%という数字は低いのでは?」と感じる方もいるかもしれませんが、これは「症状が完全にゼロの状態が長く続いている」という厳しい基準での数字です。部分寛解まで含めると、はるかに多くの方が安定した生活を送れています。
また、この数字は「適切な治療を受けた場合」のものであり、治療の質を高めることで寛解率は高められる可能性があります。早期診断・早期治療、服薬の継続、生活管理などによって、あなた自身の予後は大きく変わります。
なぜ「一生治らない」と言われるのか【3つの理由】
双極性障害が「一生治らない」と誤解される理由は、主に3つあります。それぞれの理由を正しく理解することで、不安が軽減されます。
①再発率が非常に高いから
双極性障害は、精神疾患の中でも再発率が高い病気として知られています。治療を続けていても、ストレスや生活リズムの乱れなどのきっかけで再発することがあります。
治療を一度も受けなかった場合、再発率は非常に高いことが知られており、再発するたびに症状が重くなる傾向があります。一方、治療を継続すると再発率は大きく下がり、再発しても軽症で済むことが多くなります。
「再発する=治らない」ではありません。再発は「治療やセルフケアを見直すサイン」と捉え、主治医と相談しながら対策を強化していくことが大切です。
②完治の定義(症状ゼロが続くこと)が難しいから
双極性障害における「完治」とは、「薬を一切飲まず、症状がまったく出ない状態が一生続く」ことを意味します。この厳密な基準では、確かに「完治」は現代医学でも難しいのが現状です。
しかし、これは双極性障害に限った話ではありません。高血圧・糖尿病・喘息などの慢性疾患も、「完治」が難しく、治療を続けながらコントロールしていく病気です。この点で、双極性障害は特別に悲観すべき病気ではなく、慢性疾患の一つとして捉えるのが正しい理解です。
③慢性疾患として長期管理が必要だから
双極性障害は、症状が安定しても服薬と通院を続けることが必要な「慢性疾患」です。この「治療が一生続くかもしれない」という事実が、「一生治らない」という印象につながっています。
しかし、治療が続くことは「治らないこと」とイコールではありません。治療を続けることで症状がコントロールされ、発症前と変わらない生活が送れるのです。治療は「敗北」ではなく「健康を維持するための習慣」と考えましょう。
寛解までの期間と個人差

平均的な期間
双極性障害が寛解に至るまでの期間には個人差が大きく、「平均で◯ヶ月」と一概に言えるものではありません。数ヶ月で安定する方もいれば、1〜2年、場合によっては数年かかる方もいます。
また、双極性障害の気分エピソードは、初めのエピソードから次のエピソードまで数年間隔(場合によっては5年以上)あくこともあります。この期間は症状がなく健康な状態と変わらないため、「治った」と感じることもあるでしょう。しかし、この間に治療を中断すると再発のリスクが高まるため注意が必要です。
個人差が大きい理由
寛解までの期間が人によって異なる理由には、次のようなものがあります。
- 症状の重さ(Ⅰ型/Ⅱ型、エピソードの回数)
- 発症から治療開始までの時間(早いほど予後が良い傾向)
- 治療内容(薬剤の種類・用量の適切さ)
- 服薬・通院の継続度
- 生活環境・ストレス要因
- 家族のサポート体制
- 本人の病気への理解
焦らず、自分のペースで治療を続けることが大切です。「他の人より治りが遅い」と自分を責める必要はありません。
早期診断・早期治療の重要性
双極性障害の予後を左右する最も重要な要素の一つが、早期診断・早期治療です。発症から診断・治療開始までの時間が短いほど、予後が良い傾向があります。
ただし、双極性障害は診断が難しく、最初にうつ病と診断された方のうち1〜2割が後に双極性障害と診断し直されます。正しい診断までに平均4〜10年かかるとも言われています。
うつ病の治療をしても改善しない、気分の波が激しい、過去に異常に調子がよかった時期がある——このような場合は、主治医に双極性障害の可能性を相談してみてください。正しい診断にたどり着くことで、予後が大きく改善することがあります。
高血圧・糖尿病と同じ「慢性疾患」として捉える
慢性疾患という考え方のメリット
双極性障害を「慢性疾患」として捉えることには、大きなメリットがあります。それは、「治らない病気」という悲観的な認識から「管理する病気」という建設的な認識への転換です。
慢性疾患は、糖尿病・高血圧・喘息・関節リウマチなど、現代社会に多くあります。これらの病気を持つ方は、治療を続けながら普通に仕事をし、家庭を築いています。双極性障害も、これらと同じ位置づけの病気なのです。
|
比較項目 |
双極性障害 |
高血圧 |
糖尿病 |
|---|---|---|---|
|
完治 |
困難 |
困難 |
困難 |
|
服薬継続 |
必要 |
必要 |
必要 |
|
生活習慣管理 |
必要 |
必要 |
必要 |
|
自己判断中止 |
再発・悪化 |
合併症リスク |
合併症リスク |
|
安定した生活 |
可能 |
可能 |
可能 |
表からわかるように、双極性障害は高血圧や糖尿病と同じく、「治療と生活管理を続ければ安定した生活が送れる病気」です。決して特別に絶望的な病気ではありません。
「治らない」ではなく「付き合う」
糖尿病の方が「私は一生治らない」と嘆きながら過ごすことは少ないでしょう。多くの方は、血糖値を管理しながら「この病気と上手に付き合っていく」と前向きに考えています。
双極性障害も同じです。「治らない」と嘆くのではなく、「上手に付き合っていく」というマインドセットへの転換が、心の負担を大きく軽くします。
- 「なぜ自分が」ではなく「どう付き合うか」と考える
- 病気を自分の一部として受け入れる
- 症状のコントロールに焦点を当てる
- 治療を「健康習慣」として生活に組み込む
- 病気を理由に自分を責めない
治療を続ければ普通の生活が送れる
双極性障害の方で、治療を続けながら社会で活躍している方は多くいます。仕事・結婚・子育て・趣味——どれも諦める必要はありません。
双極性障害と診断されたことが、あなたの人生の可能性を閉ざすわけではありません。病気とどう向き合い、どのように治療や支援を活用していくかによって、未来は大きく変わります。
双極性障害は「付き合い方を学べば共存できる病気」です。正しい知識と適切な治療で、あなたらしい人生を十分に歩むことができます。
再発を防ぐためにできる5つのこと

双極性障害の管理で最も重要なのが、「再発予防」です。再発を繰り返すほど予後が悪化するため、日々のセルフケアが何よりも大切になります。
①服薬を継続する(自己判断で中止しない)
双極性障害の治療で最も重要なのが、服薬の継続です。気分安定薬(リチウム・バルプロ酸・ラモトリギン等)は、症状がない時期でも飲み続けることで再発を予防します。
- 毎日決まった時間に服薬する
- 服薬管理アプリやピルケースを活用する
- 飲み忘れた場合は主治医に相談する
- 副作用があっても自己判断で中止せず医師に相談
- 「調子がよくなった」と勝手に減薬・中止しない
服薬の中止は再発の最大の原因です。寛解期でも薬を飲み続ける理由を、主治医とよく話し合っておきましょう。
②生活リズムを整える(特に睡眠)
双極性障害では、生活リズム、特に睡眠リズムの乱れが再発の大きな誘因になります。睡眠不足や昼夜逆転は、躁状態のきっかけになることがよく知られています。
- 毎日同じ時間に就寝・起床する
- 1日7〜8時間の睡眠を確保する
- 昼寝は30分以内に抑える
- 寝る前のスマホ・カフェインを控える
- 朝日を浴びる習慣をつける
- 食事の時間を一定にする
③ストレス管理を意識する
ストレスは再発の大きな誘因です。ストレスを完全になくすことはできませんが、自分なりの対処法を持つことが大切です。
- 自分にとってのストレスサインを知る
- 深呼吸・瞑想・ヨガなどのリラクゼーション技法
- 趣味・好きなことの時間を確保する
- 信頼できる人に悩みを話す
- 長時間労働や無理な約束を避ける
- 必要に応じてカウンセリングを利用する
④再発サインを自分で把握する
再発を早期に察知できれば、重症化を防げます。自分の「調子が悪くなる前兆」を知っておきましょう。
- 【躁状態の前兆】睡眠が減る・口数が増える・無駄な買い物をする・アイデアが次々浮かぶ
- 【うつ状態の前兆】疲れやすい・食欲低下・意欲低下・ネガティブな考え・早朝覚醒
- 気分日記をつけて日々の状態を記録
- 家族と「危ないサイン」を共有しておく
- サインが出たら早めに主治医に連絡
⑤定期的に通院する
症状が安定していても、定期的な通院は欠かせません。医師は専門的な視点で、本人が気づかない小さな変化を察知できます。
- 決められた頻度で通院する(月1回が一般的)
- 調子が悪くなくても予約をキャンセルしない
- 気分日記を持参して医師に見せる
- 血液検査(リチウム血中濃度等)を定期的に受ける
- 質問・不安があれば遠慮なく医師に伝える
治療を中断するとどうなるか
再発の間隔が短くなる
治療を中断すると、再発のリスクが急激に高まります。一度目は数年後の再発でも、治療中断を繰り返すと、再発の間隔がだんだん短くなっていきます。年に何回も再発するようになることもあります。
これは双極性障害の「キンドリング現象」と呼ばれる仕組みで、エピソードを繰り返すほど脳が「過敏に反応」するようになり、小さなきっかけでも再発しやすくなるとされています。
症状が悪化しやすい
治療を中断して再発したエピソードは、以前より重症化する傾向があります。躁状態がより激しくなる、うつ状態がより深くなる、混合状態が出現するなど、コントロールが難しくなります。
以前は通院治療で済んでいたのが、入院が必要なほどの重症になることもあります。軽度のうちに治療を継続することが、長期的には本人の負担を減らすことにつながります。
薬が効きにくくなる
治療中断を繰り返すと、これまで効いていた薬が効きにくくなることがあります。薬剤の種類を変えたり、複数の薬を組み合わせたりする必要が出てくる場合もあります。
一度効いた薬が効かなくなると、新しい治療法を模索しなければならず、治療期間が長引くことになります。効果的な治療を続けるためにも、自己判断での中止は避けてください。
自殺リスク・寿命への影響
双極性障害は自殺のリスクが高く、また生活習慣病になりやすいことから、一般の方より寿命が8〜10歳短いとの報告があります。これは深刻な事実ですが、適切な治療で大きく改善できます。
双極性障害のうつ状態、特に混合状態は自殺リスクが高いことが知られています。また、治療中断による生活リズムの乱れや過食・運動不足は、生活習慣病(糖尿病・高血圧・心疾患)のリスクも高めます。
しかし、治療を継続することでこれらのリスクは大幅に軽減できます。治療は、「症状を抑える」だけでなく、「命を守る」「寿命を延ばす」ための重要な取り組みなのです。
軽躁状態での治療中断に要注意

軽躁は「治った」と勘違いしやすい
双極性障害の再発の最大の要因は、軽躁状態での自己判断による治療中断です。軽躁状態は「気分がよく」「エネルギッシュで」「仕事もはかどる」状態なので、本人は「治った」「薬はもう要らない」と勘違いしやすいのです。
「最近ほどよく明るく頑張れている」「調子がいいから薬を減らしたい」「副作用が気になるから一度やめてみよう」——こうした気持ちから服薬を中止し、予約していた診察もキャンセルしてしまう。これが再発を引き起こす典型的なパターンです。
家族も気づかないことがある
厄介なのは、軽躁状態は家族から見ても「最近元気そう」「調子がよくて何より」としか見えないことが多い点です。本人が異常に調子よく見える場合でも、「病気が治ったのでは」と家族も思ってしまいます。
しかし、そのテンションの高さ自体が軽躁状態の症状であり、放置すると次にうつ状態に急激に移行したり、さらに強い躁状態に進展したりするリスクがあります。
周囲の客観的視点が重要
軽躁状態を見逃さないためには、本人と家族が「要注意サイン」を事前に話し合っておくことが重要です。
- 普段より睡眠時間が明らかに短い
- 口数が増えている
- 衝動的な買い物・契約が増えている
- 仕事や活動を詰め込みすぎている
- 人付き合いが普段より活発になっている
- 感情の振れ幅が大きくなっている
これらのサインに気づいたら、本人が「大丈夫」と言っても、家族から主治医に相談することが大切です。本人自身も、寛解期のうちに「自分が軽躁になったら家族の指摘を受け入れる」と約束しておくとよいでしょう。
軽躁状態での治療中断は、再発の最大の原因です。「調子がいい」と感じる時ほど、治療を続ける意識を強く持ってください。
一生付き合うことのポジティブな側面
双極性障害と「一生付き合う」ことは、ネガティブなことばかりではありません。病気と向き合う過程で得られるものもあります。
自己理解が深まる
双極性障害と向き合う中で、自分自身の気分・思考・行動パターンを細かく観察する習慣が身につきます。これは健常な方にも難しいレベルの自己理解につながります。
自分のストレスサイン、調子がよい時の行動、疲れやすい環境など、自分を客観的に知ることは、人生を歩む上で大きな財産になります。
健康的なライフスタイルを確立できる
双極性障害の管理には、規則正しい生活・適切な睡眠・ストレス管理・適度な運動などが欠かせません。これらを習慣化することで、病気を持たない人よりも健康的なライフスタイルを確立できることがあります。
実際、双極性障害の治療をきっかけに、飲酒を減らし、運動を始め、バランスのよい食事を心がけるようになり、以前より体調が良くなったという方も少なくありません。
創造性を活かせる分野もある
双極性障害の方の中には、芸術・学術・ビジネスなどの分野で才能を発揮する方が多いことが知られています。エネルギー・創造性・感受性の豊かさは、時に大きな力になります。
もちろん、症状が安定していることが大前提ですが、病気の特性を理解し、コントロールしながら才能を開花させることは不可能ではありません。病気はあなたの可能性を決めるものではなく、あなたの一側面に過ぎません。
サポートネットワークの大切さを知る
病気と付き合う過程で、家族・友人・医療者・仲間(ピアサポート)とのつながりの大切さを実感できます。孤独に頑張るのではなく、支え合う関係性の価値を学べることは、人生を豊かにする大きな要素です。
双極性障害の当事者同士の集まり(ピアサポート・家族会)に参加することも、勇気づけられる体験になります。「自分だけではない」「同じ悩みを乗り越えてきた人がいる」という実感は、何よりの心の支えになります。
家族ができるサポート
病気を正しく理解する
家族のサポートは、双極性障害の治療に大きな影響を与えます。まず、家族が病気を正しく理解することが出発点です。
- 双極性障害は「脳の病気」であり性格の問題ではない
- 躁状態・うつ状態は病気の症状
- 「甘え」「怠け」ではない
- 治療には時間がかかる
- 完治ではなく寛解を目指す
信頼できる書籍・医療機関のサイト・家族会などを通じて、正しい知識を学びましょう。主治医の診察に同席することも、理解を深める良い機会です。
再発サインを一緒に把握する
本人は自分の変化に気づきにくいため、家族が再発サインを察知する役割を果たします。
- 寛解期に「自分が再発しそうな時のサイン」を本人と話し合う
- 気づいたら本人を責めずに、優しく指摘する
- 「最近睡眠が少ないね」「普段より口数が多いよ」など客観的に伝える
- 本人が受け入れない場合は、主治医に相談
- 緊急時の対応(精神科救急等)を知っておく
治療継続を支える
服薬や通院の継続は、家族のさりげないサポートが大きな支えになります。
- 服薬を習慣化する手伝い(特に継続のしにくい時期)
- 通院に付き添う
- 治療をやめようとする時の心配を伝える
- 「薬を続けてくれてありがとう」など肯定的な言葉がけ
- 医療費の手続き(自立支援医療等)のサポート
家族自身のセルフケアも忘れない
双極性障害の方を支えることは、家族にとって長期的な負担になります。支える家族自身のメンタルヘルスも大切です。
- 自分の時間を確保する
- 他の家族・親戚と役割を分担する
- 家族会・支援団体を活用する
- 必要ならカウンセリングを利用する
- 「自分が全て背負わなければ」と思わない
支える家族が健康でいることは、本人の回復にとっても最大の支えになります。自分を犠牲にしないでください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 双極性障害は本当に一生治らないのですか?
厳密な意味での「完治」(薬を飲まず症状がゼロの状態が続くこと)は、現在の医学では難しいとされています。しかし、「寛解」(症状が安定した状態)を長期間維持することは多くの方で可能であり、発症前と変わらない日常生活を送ることができます。「治らない病気」ではなく「管理する病気」と捉えましょう。
Q2. 薬は一生飲み続けないといけないのですか?
多くの方は、再発予防のために長期的な服薬継続が推奨されます。症状が長期間安定している場合、主治医と相談の上で徐々に減薬することもありますが、自己判断での中止は再発リスクを大きく高めるため注意が必要です。高血圧・糖尿病の薬と同じように、「健康を維持する習慣」と考えましょう。
Q3. 何回も再発していて絶望しています。もう治らないのでしょうか?
絶望の気持ちはとてもつらいですよね。しかし、再発を繰り返しても治療を続けることで症状は安定します。再発は「治療法を見直すサイン」と捉え、主治医と一緒に治療内容・生活習慣を見直してみてください。薬の種類変更・用量調整・心理療法の追加など、できることはまだあります。諦めないでください。
Q4. 双極性障害でも結婚・出産・仕事は可能ですか?
はい、適切な治療で症状が安定していれば、結婚・出産・仕事のいずれも可能です。多くの双極性障害の方が、これらを実現しながら充実した人生を送っています。ただし、妊娠中は服薬の調整が必要な場合があるので、妊娠を希望したら早めに主治医に相談してください。仕事についても、傷病手当金・障害年金・就労支援などの制度を活用できます。
Q5. 双極性障害の方の寿命は本当に短いのですか?
適切な治療を受けていない場合、自殺リスクや生活習慣病(糖尿病・高血圧・心疾患)のリスクが高まり、一般の方より寿命が8〜10歳短いとの報告があります。しかし、これは「治療を受けない場合のリスク」です。適切な治療を継続し、生活習慣を整えることで、このリスクは大きく減らせます。治療を続けることは、寿命を守るための重要な取り組みです。
Q6. 「末路」という言葉を検索してしまいました。本当に絶望的な未来しかないのですか?
「末路」という言葉に囚われないでください。これは治療を受けない場合のリスクを指す言葉で、病気そのものの運命ではありません。適切な治療とセルフケアで、病気をコントロールし、自分らしい人生を築くことは十分に可能です。絶望的な未来ではなく、自分のペースで歩める未来があります。今、このページを読んでいることが、未来を変える第一歩になります。
Q7. 家族が双極性障害です。どう接したらいいか分からず、疲れてしまいました。
とても大変な状況ですね。まず、あなた自身のつらさを認めてあげてください。双極性障害の家族を支えることは、本当に大きな負担です。一人で抱え込まず、家族会(双極性障害当事者・家族の会)に参加する、精神保健福祉センターに相談する、必要なら自分自身もカウンセリングを受けるなど、サポートを活用してください。あなたが元気でいることが、本人の支えになります。自分を犠牲にせず、共に歩む関係を築きましょう。
まとめ
「双極性障害は一生治らない」という言葉について、この記事でお伝えしたかった大切なポイントをおさらいします。
- 双極性障害は「一生治らない病気」ではなく「慢性疾患」
- 完治ではなく「寛解」を目指すことが治療の基本
- 適切な治療を受けた方の約24%が完全寛解に至っているデータもある
- 高血圧・糖尿病と同じ慢性疾患として捉えると心の負担が減る
- 再発予防のカギは「服薬継続」「生活リズム」「ストレス管理」「再発サイン把握」「定期通院」
- 治療を中断すると再発間隔が短くなり、症状が悪化する
- 軽躁状態での「もう治った」という勘違いによる治療中断が最大のリスク
- 治療を続ければ、仕事・家庭・趣味と充実した生活が送れる
- 家族のサポートと、家族自身のセルフケアも大切
- 病気と向き合う過程で得られるものもある(自己理解・健康習慣・つながり等)
双極性障害の診断を受けて「これまで通りの生活は難しいのではないか」と絶望している方へ。その絶望は、病気の症状の一つである「悲観的思考」かもしれません。実際には、適切な治療と生活管理で、発症前と変わらない充実した人生を歩んでいる方がたくさんいます。
焦らず、一歩ずつ。治療を続けることは、決して「敗北」ではなく「未来を守るための習慣」です。あなたの人生の可能性は、双極性障害によって閉ざされるものではありません。正しい知識と支援を得て、自分らしい日々を取り戻せることを、心から願っています。
双極性障害でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
監修者
院長 根木 淳
愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手金融機関に勤務。2005年、秋田大学医学部卒業後、名古屋市立大学医学部精神科に入局。八事病院、三重県立子ども心身発達医療センターなどで研鑽を積む。京都大学医学部大学院とfMRIによる精神症状の脳機能の共同研究を経て慶應義塾大学大学院精神・神経科に入局。東京大学工学系研究科と連携して自動車運転の認知機能と安全性についての研究を行う。大学病院での診療、戸田病院、秋元病院、ガーデンクリニックなどでの診療業務に併行して、外資系及び国内大手IT企業、外資系大手コンサルティングファーム、テレビ・インターネット通販企業、都市銀行、国内大手証券会社、総合商社、特許翻訳・知財コンサル系企業、建設コンサルタント企業、広告代理店、大手旅行代理店、独立行政法人(公的法務支援機関)、大手不動産、大手企業信用調査会社、グローバルEC系企業、大手アパレル企業、国内最大手スーパーなど、都心大企業を中心に50社以上の産業医として企業のメンタルヘルスに従事。令和2年5月、北越谷駅前さくらメンタルクリニック院長に就任。併行して産業医業務に従事している。 【資格・所属学会など】 日本精神神経学会専門医・指導医 精神保健指定医 日本医師会認定産業医 日本老年精神医学会専門医・指導医