クリニックブログ
「昨日のことがよく思い出せない」「大事な用事を何度も忘れてしまう」「人との約束をすっかり忘れていた」——双極性障害の治療を受けている方の中には、このような「記憶が飛ぶ」悩みを抱えている方が少なくありません。
「もしかして認知症が始まったのでは」「このまま進行してしまうのでは」と不安になるのは自然なことです。しかし、まず安心してください。双極性障害による記憶障害は、認知症ではありません。多くの場合、治療と生活の工夫で改善・軽減できる症状です。
双極性障害で記憶が飛ぶ原因は、気分エピソードによる集中力低下、脳機能の一時的変化、薬の副作用、ECT(電気けいれん療法)の影響など、複数の要因が考えられます。正しく原因を理解し、適切な対策を取ることで、日常生活の質を大きく向上できます。
この記事では、双極性障害で記憶が飛ぶ原因・認知機能障害の実態・認知症との違い・日常生活でできる7つの対策・家族ができるサポートまで、精神科医の視点から網羅的に解説します。あなたの不安が少しでも軽くなり、前向きな対策の一歩を踏み出せることを願っています。
双極性障害で「記憶が飛ぶ」とは
認知機能障害という症状
双極性障害で記憶が飛ぶ現象は、「認知機能障害」と呼ばれる症状の一部です。認知機能とは、記憶・注意・判断・思考・計画などの「脳の高度な働き」を指します。双極性障害では、気分の波(躁状態・うつ状態)だけでなく、この認知機能に影響が出ることが近年広く知られるようになってきました。
かつて双極性障害は、「躁病エピソード」と「うつ病エピソード」の時期だけが問題で、合間の「寛解期」は健康な人となんら変わらないと考えられていました。しかし現在では、寛解期にも認知機能障害が残存し、それによる困難は気分症状が残ることよりも、日常生活や社会機能への影響が大きいとの報告もあります。
記憶が飛ぶ具体的な症状
双極性障害で記憶が飛ぶ症状は、次のような形で現れます。
- 昨日や数日前の出来事を思い出せない
- 人との約束・会話内容を忘れる
- 同じ話を何度も繰り返してしまう
- 大事な予定を忘れる
- 仕事で指示されたことをすぐ忘れる
- 物の置き場所がわからなくなる
- 買い物で必要なものを忘れる
- 本を読んでも内容が頭に入らない
- 新しい情報を覚えるのが難しい
これらの症状は、仕事・学業・人間関係など多方面に影響し、自信の喪失やストレスの原因になることもあります。本人は「最近物忘れがひどくなった」と感じ、「自分の能力が低下したのでは」と不安を抱えがちです。
エピソード記憶への影響が特に強い
双極性障害による記憶障害は、特に「エピソード記憶」への影響が強いとされています。エピソード記憶とは、「いつ・どこで・何をした」という自分が体験した出来事についての記憶のことです。
- 昨日の昼、友人とカフェで食事をした
- 先週の会議で同僚が発言した内容
- 家族と過ごした週末の出来事
- 数ヶ月前に読んだ本の内容
こうしたエピソード記憶が飛ぶと、家族や友人との会話にズレが生じたり、同じ話を繰り返してしまったりすることがあります。知識(意味記憶)や技能(手続き記憶)は比較的保たれることが多いため、「仕事の手順は覚えているのに、最近のやりとりが思い出せない」といった状態になります。
寛解期でも残存することがある
双極性障害の認知機能障害は、躁状態・うつ状態の時期に目立ちますが、寛解期(症状が安定している時期)にも残存することが明らかになっています。つまり、気分の波が落ち着いているときでも、記憶や集中力の問題が続く場合があるのです。
この事実は、認知機能障害が単なる二次的な症状ではなく、双極性障害の中核的な特徴の可能性があることを示しています。「調子は良いのに記憶だけ戻らない」と感じる方も、これは病気の特徴であり、あなたの努力不足ではありません。
双極性障害で記憶が飛ぶ4つの原因
①脳の機能・構造的変化(前頭前野・海馬)
双極性障害では、脳の働き方に変化がみられる可能性が研究されています。特に、前頭前野(思考や判断を担当)と海馬(記憶の形成に重要)の機能連携に異常が生じ、これが記憶障害と関連していると考えられています。
- 【前頭前野】感情のコントロール・判断力を司る部位。萎縮すると気分の変動が激しくなる
- 【海馬】記憶や学習に関わる部位。萎縮すると新しい情報の記憶・過去の想起が妨げられる
躁状態・うつ状態の再発を繰り返すことは、脳への負担を増やし、これらの部位の変化を進行させる可能性があるとの研究もあります。再発予防が記憶を守ることにもつながるのです。
②気分エピソード中の集中力・注意力低下
躁状態・うつ状態の最中は、注意力や集中力が大きく低下するため、記憶の形成が十分にできなくなります。
- 【躁状態】思考が次々に飛び、注意散漫。新しい情報が定着しない
- 【うつ状態】集中力が極端に低下し、情報が頭に入らない。新しいことを覚えるのが困難
つまり、気分エピソード中は「記憶が失われた」というより、情報が十分に整理・定着しにくい状態になっています。後から思い出そうとしても、記憶として残っていないため思い出せないのです。
③薬物療法の副作用
双極性障害の治療で使われる薬剤の中には、認知機能に影響を与えるものがあります。
- 【気分安定薬(リチウム等)】血中濃度が高すぎると記憶障害・注意力低下を起こすことがある
- 【ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬】記憶形成を妨げる作用がある(特に高用量・長期使用で顕著)
- 【抗精神病薬】一部で注意・集中力への影響がある
- 【抗てんかん薬(バルプロ酸等)】一部の方で認知機能への影響
ただし、これらの薬を自己判断で中止するのは厳禁です。薬の中止は再発リスクを高め、かえって記憶障害が悪化することもあります。副作用が気になる場合は必ず主治医に相談し、薬の種類や用量の調整を検討してもらいましょう。
④電気けいれん療法(ECT)の副作用
重度のうつ状態や躁状態に対して行われる電気けいれん療法(ECT)、特に修正型電気けいれん療法(mECT)には、一時的な記憶障害の副作用があります。
脳に電気刺激を与えてけいれん発作を誘発することで症状改善を目指す治療法で、即効性があり重症例に有効ですが、治療後に記憶障害や混乱が生じることがあります。多くの場合、この記憶障害は数週間で改善するとされています。
ECT後の記憶障害に気づいた場合は、主治医に相談してください。治療方針の見直しや、記憶を補うための生活上の工夫をアドバイスしてもらえます。
記憶が飛ぶタイミングと症状の出方
躁状態のとき(注意散漫で記憶が定着しない)
躁状態では、気分が高揚し、思考が飛び、注意散漫になるため、情報が記憶として定着しません。次々と新しいことに手を出すものの、後から思い出そうとすると「何をしたかよく覚えていない」となりがちです。
また、躁状態中の無謀な行動(浪費・暴言・人間関係のトラブル等)を、後になって「なぜあんなことをしたのか」「あの時どんな気持ちだったのか」を鮮明に思い出せないこともあります。これは病気の症状の一つであり、周囲からの指摘を受けて「そんなことをしたのか」と戸惑う方も少なくありません。
うつ状態のとき(集中力低下による記憶障害)
うつ状態では、脳のエネルギー枯渇により、集中力・注意力が極端に低下します。これにより、新しい情報を記憶に定着させることが困難になり、日常的な会話・予定・指示を忘れやすくなります。
また、うつ状態では思考速度も遅くなるため、「何をするにも時間がかかる」「同じことを繰り返してしまう」「判断に迷う」といった困りごとも出やすくなります。これらもうつ状態が改善すれば、多くの方で改善します。
寛解期にも症状が残ることがある
前述のとおり、双極性障害の認知機能障害は寛解期でも残ることがあります。具体的には以下のような状態です。
- 気分は落ち着いているのに、なぜか以前より忘れっぽい
- 仕事の効率が以前より落ちた気がする
- 集中力が続かない
- 計画を立てて実行することが難しくなった
これらは「気分症状が残っている」のではなく、認知機能障害が持続しているのです。寛解期の認知機能障害は、生活の質(QOL)や仕事の能力に大きく影響することが指摘されています。
病気の期間が長いほど影響が大きい
双極性障害を発症してから治療期間が長くなるほど、認知機能障害が強くなる傾向があります。また、年齢が高いほど、エピソードを繰り返した回数が多いほど、認知機能への影響が大きくなることもわかっています。
だからこそ、早期診断・早期治療と再発予防が、記憶を守ることにもつながります。「調子が良くなったから」と自己判断で治療を中断せず、主治医と相談しながら継続することが重要です。
双極性障害の認知機能障害の実態
国際双極性障害学会の報告データ
国際双極性障害学会(ISBD)が発表した当事者向け冊子では、双極性障害の認知機能障害について詳しく解説されています。双極性障害の方の認知機能には大きなばらつきがあり、全員が重度の障害を抱えているわけではないことも示されています。
障害される認知機能(記憶・注意・処理速度・実行機能)
双極性障害で主に障害される認知機能には次のものがあります。
- 【記憶】新しい情報を覚える・思い出す能力
- 【注意】一つのことに集中し続ける能力
- 【処理速度】情報を処理するスピード
- 【実行機能】計画を立てて実行する能力・複数の課題を同時にこなす能力
中でも、記憶と実行機能の障害は仕事における能力に大きく影響するとされています。「段取りが組めない」「複数の仕事を並行してこなせない」という困りごとは、この実行機能障害の表れかもしれません。
3つのグループ分類
双極性障害の患者さんを認知機能障害の程度で3つのグループに分けると、以下のような割合になります。
|
グループ |
割合 |
特徴 |
|---|---|---|
|
全体的に障害があるグループ |
12〜40% |
複数の認知機能領域にわたり障害 |
|
注意・処理速度が障害されるグループ |
29〜40% |
注意力・作業スピードに困難 |
|
比較的維持されるグループ |
32〜48% |
健常者と大差ない |
つまり、双極性障害の方全員が重度の認知機能障害を抱えているわけではなく、比較的維持されている方も3割〜5割近くいることがわかります。過度に悲観する必要はありません。
日常生活への影響
認知機能障害は、次のような日常生活の場面に影響します。
- 長い会話についていくのが難しい
- 本を読むのが困難
- 食品の買い物をすること
- 予定を思い出すこと
- 家族や友人のために料理を作ること
- 仕事のスケジュール管理
- 金銭管理
これらの困りごとは「本人の努力不足」などと誤解されがちですが、れっきとした病気の症状です。本人も周囲も、これを「病気の症状」と理解することが、適切な対処への第一歩です。
認知症との違い【比較表あり】
双極性障害の記憶障害と認知症の違い
記憶が飛ぶ症状があると、「認知症ではないか」と心配される方は非常に多いです。しかし、双極性障害の認知機能障害と認知症は、まったく別の病態です。主な違いを表で整理しました。
|
比較項目 |
双極性障害の認知機能障害 |
認知症 |
|---|---|---|
|
進行性 |
進行性ではない(治療で改善可能) |
進行性(徐々に悪化) |
|
発症年齢 |
10代後半〜20代で発症 |
主に65歳以上 |
|
原因 |
気分の波・薬剤・脳機能の変化 |
脳細胞の変性・萎縮 |
|
症状の波 |
気分エピソードに連動して変動 |
徐々に悪化する |
|
記憶障害の性質 |
新しい情報の記憶・想起の困難 |
少し前の記憶が失われていく |
|
自覚 |
自覚あり(本人が気づく) |
進行すると自覚がなくなる |
|
日常生活 |
工夫で維持可能 |
徐々に介護が必要 |
|
受診先 |
精神科・心療内科 |
脳神経内科・物忘れ外来 |
進行性かどうか
最大の違いは、認知症が進行性(徐々に悪化する)であるのに対し、双極性障害の認知機能障害は一方向に進行するものとは考えられていません。治療や生活管理によって改善・安定させることが可能です。
もちろん、治療を中断したり再発を繰り返したりすると脳への負担が増え、認知機能が低下することはありますが、認知症のように不可逆的に進行する病気ではありません。
受診先の違い
双極性障害の認知機能障害が気になる場合は、現在の主治医(精神科・心療内科)に相談してください。認知症が疑われる場合は、脳神経内科や物忘れ外来が専門となります。
主治医に相談すると、必要に応じて神経心理学的検査(認知機能の検査)や脳画像検査を行い、認知症との鑑別をしてくれます。
中高年で心配な場合の対応
双極性障害の治療を長く続けている中高年の方で、「認知症ではないか」と心配な場合は、以下を確認してみてください。
- 物忘れの程度が、双極性障害のエピソードに連動しているか(連動していれば認知症ではない可能性が高い)
- 生活リズム・服薬・通院は守れているか
- 過去半年〜1年で急激な進行はあるか
- 日常生活で支障をきたすレベルか
気になる場合は、主治医に相談しましょう。必要に応じて認知症の専門医を紹介してもらうこともできます。不安を抱え込まず、客観的な評価を受けるのが安心です。双極性障害による記憶障害は認知症ではなく、治療と工夫で改善できるものです。過度に悲観せず、適切な対策を取ることが大切です。
薬剤と記憶への影響

気分安定薬(リチウム等)
リチウム(炭酸リチウム)は双極性障害の第一選択薬ですが、血中濃度が高くなりすぎると注意力や記憶に影響することがあります。リチウムは治療域が狭いため、定期的な血中濃度測定が重要です。
「リチウムが原因?」と感じる場合は、主治医に相談して血中濃度を確認しましょう。用量の調整で改善することもあります。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬
ベンゾジアゼピン系の薬(デパス、ロヒプノール、サイレース等)は、服薬直後の記憶形成を妨げる作用(前向性健忘)が知られています。特に高用量・長期使用では影響が顕著になることがあります。
抗不安薬・睡眠薬の服用後、その日の出来事を覚えていない場合は、薬の影響の可能性があります。主治医に相談し、用量の見直しや、非ベンゾジアゼピン系の薬への変更を検討してもらいましょう。
抗精神病薬
非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール等)は、一般的に認知機能への影響は少ないとされていますが、鎮静作用の強い薬では集中力への影響が出ることがあります。
また、抗精神病薬が効き始めると、むしろ双極性障害による認知機能障害が改善することも多いです。躁状態・うつ状態が改善すれば、それに伴う認知機能障害も軽減されます。
電気けいれん療法(ECT)
ECT(電気けいれん療法)、特に修正型電気けいれん療法(mECT)は、重症例に即効性のある治療法ですが、一時的な記憶障害の副作用があります。通常は数週間で改善しますが、個人差があります。
ECTを受けた後に記憶障害を感じる場合は、主治医に相談してください。治療計画の調整や、記憶を補う工夫をアドバイスしてもらえます。
自己判断で薬をやめないで
薬の副作用で記憶が飛ぶと感じても、絶対に自己判断で薬をやめないでください。服薬中断は再発リスクを大きく高め、かえって認知機能を悪化させることもあります。必ず主治医に相談してください。
記憶を飛ばさないためにできる7つの対策

双極性障害による認知機能障害の治療法は、まだ明確に確立されていません。しかし、生活習慣の工夫で認知機能を守ることは十分可能です。7つの対策をご紹介します。
①十分な睡眠を確保する
睡眠は記憶の整理・定着に欠かせません。特に深い眠り(ノンレム睡眠)の時間帯に、記憶の整理が行われることが研究でわかっています。
- 毎日7〜8時間の睡眠を確保する
- 就寝・起床時間を一定にする
- 寝る前のスマホ・カフェインを控える
- 寝室を静かで暗い環境にする
- 昼寝は30分以内に抑える
睡眠リズムの安定は、双極性障害そのものの再発予防にもつながる、最も重要な生活習慣の一つです。
②定期的な運動をする
運動は脳の健康を保ち、認知機能を維持する最強の方法の一つです。特に有酸素運動(ウォーキング・ジョギング・水泳など)が効果的です。
- 1日30分程度の散歩
- 週2〜3回の軽いジョギング
- ヨガ・ストレッチ
- 無理のない範囲で継続する
運動は脳の海馬を活性化し、神経細胞の新生を促します。また、気分の安定にも寄与するため、一石二鳥の対策です。
③バランスの取れた食事
食事も脳の機能に影響します。バランスの取れた食事を心がけましょう。
- オメガ3脂肪酸(青魚・くるみ)は脳に良い
- 緑黄色野菜・果物で抗酸化物質を摂取
- トランス脂肪酸(マーガリン・揚げ物)は控える
- 過度な糖質・加工食品を避ける
- 水分を十分に摂る
④アルコールを控える
アルコールは脳に悪影響を与え、記憶障害を悪化させます。また、睡眠の質も下げ、抗うつ薬・気分安定薬の効果も減弱させます。
- できるだけ飲まない
- 飲む場合は少量にとどめる
- 服薬中は特に注意(飲酒は控えるのが原則)
- アルコールを使った寝付きの改善は逆効果
⑤ストレス管理
慢性的なストレスはコルチゾールというホルモンを過剰分泌させ、海馬を傷つけることが知られています。ストレス管理は脳を守る上でも重要です。
- 自分なりのリラックス法を持つ
- 深呼吸・瞑想を習慣にする
- 趣味・好きなことの時間を確保
- 信頼できる人に相談する
- 無理な予定を詰め込まない
⑥脳を活性化する活動
脳は使うほど活性化します。記憶力を補う活動を日常的に取り入れましょう。
- 読書を習慣にする
- パズル・クロスワード
- 新しいことを学ぶ(語学・楽器など)
- 人との会話を大切にする
- 日記をつける
⑦服薬と治療の継続
結局のところ、双極性障害の症状をコントロールすることが、認知機能を守る最大の対策です。
- 処方された薬を毎日きちんと服薬
- 定期的な通院を続ける
- 再発のサインに早く気づく
- 自己判断で薬を減らしたり中止したりしない
- 気になる副作用は主治医に相談
記憶が飛んだときの実践的な対処法

記憶の問題があっても、工夫次第で日常生活の支障を大きく減らすことができます。実践的な対処法をご紹介します。
メモ・日記をつける
記憶を補う最も基本的な方法が、メモと日記です。頭で覚えようとせず、外部に記録する習慣をつけましょう。
- 予定は手帳・カレンダーに書き込む
- その日あった出来事を日記に記す
- 重要な会話はメモを取る
- 気分日記をつけて体調の波を把握する
- 思い出せないときはメモを見返す
スマホのリマインダー・アプリを活用
現代はスマホのアプリで記憶を補うことができます。積極的に活用しましょう。
- 【カレンダーアプリ】予定管理
- 【リマインダー】服薬・予定の通知
- 【メモアプリ】瞬時に記録
- 【気分管理アプリ】体調の記録
- 【音声メモ】メモを取りにくい場面で録音
重要な情報は複数の場所に記録
大切な情報は、複数の場所に記録しておくと安心です。
- 重要な予定はカレンダー・手帳・冷蔵庫のメモの3箇所に
- 連絡先は紙とクラウド両方に保存
- 服薬管理は週ごとのピルケースを活用
- 鍵・財布の置き場所を固定する
家族・周囲と情報共有
一人で抱え込まず、信頼できる家族や同僚と情報を共有しましょう。
- 家族とスケジュールを共有する
- 大事な決定は一人で行わない
- 重要な会話には家族に同席してもらう
- 「忘れがちだから念のため教えて」と頼む
仕事・勉強での工夫
仕事や勉強で記憶の問題が困りごとになっている場合の工夫です。
- 指示は必ずメモに取る・復唱する
- 重要な会議は録音する(許可を得て)
- タスクを細分化してリスト化
- 一度に複数のことをしない(シングルタスク)
- 勉強は短時間に区切って繰り返す
- 色やイラスト・音声を組み合わせて覚える
- 人に教えることで記憶を定着させる
受診の目安と相談のポイント
どんな時に主治医に相談すべきか
次のような場合は、早めに主治医に相談しましょう。
- 急激に記憶障害がひどくなった
- 日常生活に支障が出ている
- 仕事・家事ができなくなってきた
- 家族から指摘される回数が増えた
- 薬を飲み始めてから記憶障害が強くなった
- ECTを受けた後、長期間症状が残っている
- 認知症の心配がある
主治医への伝え方
診察時には、次のような情報を整理して伝えると、的確な対応につながります。
- いつから記憶の問題を感じているか
- どのような場面で困っているか(具体例)
- 気分の波との関連はあるか
- 家族から指摘された内容
- 服用中の薬との関連を感じるか
- 日常生活にどれくらい影響しているか
メモに書いてから持参すると、診察時間を有効に使えます。
場合によっては検査が必要
症状が気になる場合、神経心理学的検査(認知機能の検査)や脳画像検査(MRIなど)で詳しく調べることもあります。主治医と相談の上、必要に応じて検査を受けてみましょう。
また、記憶障害の原因として、甲状腺機能の低下・ビタミン不足・睡眠時無呼吸症候群・認知症の始まりなど他の疾患が関わっていることもあります。血液検査などで鑑別することが重要です。
家族・周囲ができるサポート
「忘れたね」と責めない
家族が最もやってはいけないのは、「またそれ忘れたの?」「何度言えばわかるの?」と責めることです。本人はわざと忘れているのではなく、病気の症状として記憶に残らないのです。
責められると自信を失い、自分を責め、うつ状態が悪化する悪循環に陥ります。病気の症状として理解し、責めずに見守る姿勢が大切です。
リマインドをさりげなく
本人が忘れていそうな大事な予定や用事は、家族からさりげなくリマインドしてあげましょう。
- 「明日の10時に病院だね」と前日に伝える
- 服薬のタイミングでさりげなく声かけ
- 重要な書類は家族も管理する
- 子どもの行事など家族イベントは一緒に確認
押し付けがましくならず、「一緒に覚えておこう」というスタンスが理想的です。
一緒に記録する習慣を作る
家族で一緒に記録する習慣を作ると、本人だけの負担でなくなります。
- 家族カレンダーを冷蔵庫に貼る
- 家族共有のスケジュールアプリを使う
- 買い物リストは一緒に書く
- 週末に1週間の予定を確認する時間を作る
家族のサポートで「忘れても困らない仕組み」を作ることが、本人の心理的負担を大きく軽減します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 双極性障害の記憶障害は治りますか?
完全に元通りにはならなくても、治療と工夫で大幅に改善できます。気分の波が安定すると、多くの場合認知機能も改善します。また、生活習慣(睡眠・運動・食事など)を整え、薬の調整を行い、メモなどで記憶を補う工夫をすることで、日常生活での困りごとを大きく減らせます。諦めず、対策を続けていきましょう。
Q2. 認知症になる可能性はありますか?
双極性障害の認知機能障害は認知症ではなく、直接的に認知症を引き起こすわけではありません。ただし、治療を中断してエピソードを繰り返すと、脳への負担が増え、高齢期の認知機能低下のリスクが上がる可能性は指摘されています。継続的な治療と健康的な生活習慣が、将来的な認知症予防にもつながります。
Q3. 幼少期の記憶がほとんどありません。双極性障害のせいですか?
双極性障害の認知機能障害は、病気発症後の情報を覚えたり思い出したりする力の低下です。発症前、特に幼少期の記憶が失われる性質のものではありません。幼少期の記憶が乏しい場合は、虐待・いじめなどの強いストレスによる「解離性健忘」「心因性健忘」の可能性や、単なる個人差かもしれません。気になる場合は主治医に相談しましょう。
Q4. 記憶が飛ぶ症状で障害者手帳は取得できますか?
双極性障害の認知機能障害自体は、直接的に障害者手帳の対象とはなりませんが、双極性障害全体としての症状(気分の波+認知機能障害+日常生活への支障)で、精神障害者保健福祉手帳の対象になります。働くことが難しい、家事が困難など、日常生活に支障がある場合は主治医に相談し、手帳や障害年金の申請を検討しましょう。
Q5. 薬を減らせば記憶は戻りますか?
一部の薬(特にベンゾジアゼピン系・高用量のリチウム)を減らすことで記憶障害が改善することはあります。しかし、自己判断で減薬・中止するのは厳禁です。服薬中止は再発リスクを高め、かえって認知機能を悪化させます。必ず主治医に相談し、医師の指示のもとで薬の種類・用量の調整を行ってください。
Q6. ECTを受けた後、記憶障害がずっと続いています。
ECTによる記憶障害は通常数週間で改善しますが、個人差があります。数ヶ月以上症状が続く場合は主治医に相談しましょう。認知機能訓練・リハビリテーションを検討する、他の治療法に切り替えるなどの対応があります。また、「ECTを受けた前後の記憶だけ曖昧」という訴えは比較的多く、時間の経過で徐々に改善することが多いです。
Q7. 仕事に支障が出ています。職場にどう伝えればいいですか?
仕事への支障が出ている場合、次の選択肢があります。①主治医に相談して診断書を出してもらう、②産業医・人事に相談して業務調整を依頼する、③休職や障害者雇用への切り替えを検討する、④就労移行支援などの支援を活用する。「認知機能に影響がある」ことをどこまで伝えるかは状況次第ですが、「治療中の疾患があり集中力・記憶に影響が出ている」と伝えて、業務量の調整や配慮を求めることは可能です。一人で抱え込まず、主治医やソーシャルワーカーに相談しましょう。
まとめ
双極性障害で「記憶が飛ぶ」悩みについて、重要なポイントをおさらいします。
- 双極性障害で記憶が飛ぶのは「認知機能障害」という症状の一部
- 特にエピソード記憶への影響が強い
- 寛解期にも残存することがあるが、認知症ではない
- 原因は脳機能の変化・気分エピソード・薬の副作用・ECTなど複数
- 認知症とは進行性・発症年齢・原因などで明確に異なる
- 双極性障害の方の3〜5割は認知機能が比較的維持されている
- 対策は睡眠・運動・食事・アルコール制限・ストレス管理・脳活動・治療継続の7つ
- メモ・アプリ・家族との共有で日常生活を補える
- 薬の副作用が疑われても自己判断で中止しない
- 気になる場合は主治医に相談。必要に応じて検査も
- 家族は責めずに見守り、一緒に記録する仕組みを作る
記憶が飛ぶことに悩む時、「自分の能力が落ちた」「認知症かもしれない」と不安を抱えるのは自然なことです。しかし、それは双極性障害の症状の一部であり、あなたのせいでも能力の問題でもありません。適切な治療と生活の工夫で、十分に対処できる症状です。
メモや工夫で補いながら、主治医と相談しながら自分なりの付き合い方を見つけていきましょう。記憶の問題があっても、その人らしさや人生の価値が失われるわけではありません。焦らず、自分のペースで歩んでいってください。
双極性障害でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
監修者
院長 根木 淳
愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手金融機関に勤務。2005年、秋田大学医学部卒業後、名古屋市立大学医学部精神科に入局。八事病院、三重県立子ども心身発達医療センターなどで研鑽を積む。京都大学医学部大学院とfMRIによる精神症状の脳機能の共同研究を経て慶應義塾大学大学院精神・神経科に入局。東京大学工学系研究科と連携して自動車運転の認知機能と安全性についての研究を行う。大学病院での診療、戸田病院、秋元病院、ガーデンクリニックなどでの診療業務に併行して、外資系及び国内大手IT企業、外資系大手コンサルティングファーム、テレビ・インターネット通販企業、都市銀行、国内大手証券会社、総合商社、特許翻訳・知財コンサル系企業、建設コンサルタント企業、広告代理店、大手旅行代理店、独立行政法人(公的法務支援機関)、大手不動産、大手企業信用調査会社、グローバルEC系企業、大手アパレル企業、国内最大手スーパーなど、都心大企業を中心に50社以上の産業医として企業のメンタルヘルスに従事。令和2年5月、北越谷駅前さくらメンタルクリニック院長に就任。併行して産業医業務に従事している。 【資格・所属学会など】 日本精神神経学会専門医・指導医 精神保健指定医 日本医師会認定産業医 日本老年精神医学会専門医・指導医