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「双極性障害と診断されたけど、ネットで見たらADHDの症状にもぴったり当てはまる」「衝動的な行動や多弁な点、注意散漫な点が両方に共通している」「どちらの診断が正しいのか分からない」——このような混乱を抱えて検索された方も多いのではないでしょうか。
双極性障害(双極症)とADHD(注意欠如多動症)は、見た目の症状に共通点が多く、精神科医でも鑑別が難しいとされる2つの疾患です。しかし疾患の分類・発症年齢・症状の現れ方・治療アプローチに違いがあるため、正確な診断が非常に重要です。誤った診断で治療を受けると、症状が改善しないばかりか、時にかえって悪化することもあります。
さらに、最近の研究では両者が併発(合併)するケースも少なくないことがわかってきました。ADHDの10〜40%に双極性障害が併存するという報告もあり、両方の視点から考える必要性が注目されています。
この記事では、双極性障害とADHDの類似点・違い・見分け方・併発のケース・治療の違い・誤診を防ぐコツなどを、精神科医の視点から網羅的に解説します。診断に悩む当事者・ご家族にとって、理解を深めるお役に立てれば幸いです。
双極性障害とADHDが混同される理由
症状の見た目が似ている
双極性障害とADHDが混同される最大の理由は、表面的に見える症状が非常に似ていることです。特に双極性障害の「躁状態(軽躁状態)」とADHDの「多動・衝動性」は、次の点で重なります。
- 話が止まらない・多弁
- じっとしていられない・落ち着きがない
- 次々とアイデアが浮かぶ
- 衝動的に行動してしまう
- 集中力が続かない・注意散漫
- 対人関係のトラブルが多い
これらの行動を単一のエピソードとして観察すると、双極性障害とADHDは非常に似通って見えるのです。専門医でも、初診で一度の診察だけで判断するのは困難と言われています。
診断の経験が医師によって異なる
ADHDは比較的新しく注目されるようになった疾患で、成人ADHDの概念が広く認知されたのは2000年代以降です。そのため、医師によってはADHDの知識が十分でない場合があり、「気分の波のある病気=双極性障害」として診断してしまうケースもあると指摘されています。
逆にADHDに精通した医師は、双極性障害の微細な躁状態を見落とし、ADHDと診断してしまうこともあります。どちらの方向の誤診も起こり得るのが現状です。
併発するケースが多い
もう一つの重要な事実は、双極性障害とADHDは併発(合併)するケースが珍しくないということです。文献によっては、ADHDの10〜40%に双極性障害を併発するとの報告もあります。
両方の疾患を抱えていると症状が複雑に絡み合い、どちらがメインの診断なのかも判断が難しくなります。「どちらか一方」ではなく「両方」という視点も必要です。
関連記事:ADHDと双極性障害の併存とは|症状の違いと診断・治療のポイント
双極性障害とは
躁状態とうつ状態を繰り返す気分障害
双極性障害(双極症)は、気分が異常に高揚する「躁状態」と、気分が激しく落ち込む「うつ状態」を繰り返す気分障害です。以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。
躁状態では、ほとんど眠らずに動き回る、次々にアイデアが浮かぶ、自分が偉大な人物だと感じる、大きな買い物や投資をしてしまうなど、社会生活に重大な影響を及ぼす症状が現れます。一方、うつ状態では、気分の落ち込み・意欲低下・不眠・食欲不振などの症状が現れます。
発症年齢は10代後半〜20代
双極性障害の発症は、10代後半から20代前半がピークです。思春期以降に初めて症状が現れるのが典型的で、それ以前は普通に生活していた人が、ある時期から気分の波に悩まされるようになります。
この「後天的に発症する」点が、ADHDとの大きな違いの一つです。
気分の波が「エピソード」として現れる
双極性障害の症状は、「エピソード」と呼ばれる一定期間のまとまりで現れます。躁状態・軽躁状態・うつ状態のエピソードがそれぞれ数日〜数週間、場合によっては数ヶ月続き、その後症状がない「寛解期」に戻ります。
つまり、気分の波には明確な「始まり」と「終わり」があり、以前と比べて「人が変わったようだ」「最近調子がおかしい」と周囲が気づく変化が起こるのが特徴です。
ADHDとは
不注意・多動性・衝動性を特徴とする発達障害
ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠如・多動症)は、不注意・多動性・衝動性の3つを主な特徴とする発達障害の一種です。脳の発達の特徴・偏りが背景にある先天的な特性で、生まれつきの脳機能の違いによるものとされています。
ADHDの有病率は、学童期の子どもで3〜7%、成人で2.5%前後といわれています。
幼少期から一貫して症状がある
ADHDの最大の特徴は、幼少期(12歳以前)から症状が一貫して続いていることです。大人になってから急にADHDになることはありません。
子どもの頃から「落ち着きがない」「忘れ物が多い」「集中できない」「じっとしていられない」といった特徴があり、大人になってもそれが続いているというパターンが典型です。そのため、診断の際には幼少期のエピソードを詳しく確認します。
3つのタイプ(不注意型・多動衝動型・混合型)
ADHDの特性の現れ方は人によって異なり、以下の3つのタイプに分けられます。
- 【不注意優勢型】集中が続かない・忘れ物が多い・ケアレスミスが多い。多動性は目立たない。女性に多い
- 【多動・衝動優勢型】じっとしていられない・衝動的に行動する・思いつきで発言する。男性に多い
- 【混合型】不注意と多動・衝動の両方の特性がある
不注意優勢型は子どもの頃に見過ごされることが多く、成人してから気づくケースが増えています。
双極性障害とADHDの類似点
衝動性・多弁・注意散漫
双極性障害の躁状態(軽躁状態)とADHDの多動衝動性には、表面的には見分けにくい共通点があります。
- 考えずに衝動的に行動する
- 言葉が次々出てきて止まらない
- 話題が次々に飛ぶ
- 注意がそれやすく、一つのことに集中できない
- 他人の話を遮って話し出す
活動性の高さ
両者とも活動性が高くなる傾向があります。休みなく動き回ったり、予定を詰め込みすぎたり、次から次へと新しいことに手を出したりします。
ただし、双極性障害の場合はエピソード中に限られますが、ADHDの場合は日常的に見られる違いがあります。
気分の不安定さ
ADHDの人にも気分の変動はよく見られます。刺激に敏感で、ちょっとしたことで気分がアップダウンすることがあります。これが双極性障害の気分の波と混同されやすいポイントです。
ただし、ADHDの気分の変動は「時間単位・日単位」で変化するのに対し、双極性障害は「数日〜数週間」の持続期間があるという違いがあります。
対人関係のトラブル
衝動的な発言、人の話を遮る、約束を忘れる、計画を最後まで遂行できないなどの特徴から、両者とも対人関係のトラブルを抱えやすい傾向があります。
これにより二次的にうつ状態・不安を抱えることもあり、症状がさらに複雑に見える一因となっています。
双極性障害とADHDの違い【比較表】
両者の違いを包括的に比較しました。診断の参考にしてください。
|
比較項目 |
双極性障害(双極症) |
ADHD(注意欠如多動症) |
|---|---|---|
|
疾患の分類 |
気分障害(精神疾患) |
発達障害(神経発達症) |
|
症状の現れ方 |
エピソード性(波がある) |
持続性(常に一貫) |
|
発症年齢 |
思春期〜成人期(10代後半〜) |
幼少期(12歳以前に症状) |
|
先天・後天 |
後天的に発症 |
先天的(生まれつき) |
|
気分の高揚 |
躁状態で異常な気分の高揚あり |
気分の高揚自体はない |
|
誇大感・万能感 |
躁状態では顕著 |
基本的にない |
|
睡眠 |
躁状態で「眠らなくても平気」 |
入眠困難・夜型傾向 |
|
うつ状態 |
うつ状態を繰り返す |
基本的になし(二次的に併発可) |
|
主な原因 |
神経伝達物質・ゲノム要因 |
前頭葉の発達・ドーパミン機能 |
|
治療薬 |
気分安定薬(リチウム等) |
中枢神経刺激薬(メチルフェニデート等) |
|
社会的トラブル |
躁状態で衝動的な浪費・契約 |
不注意によるミス・忘れ物 |
症状の持続性vsエピソード性
両者を区別する最も重要なポイントが、症状の現れ方の時間軸です。
- 【ADHD】症状が幼少期から一貫して持続的に続く
- 【双極性障害】症状がエピソード(期間限定の波)として現れる
ADHDでは「毎日一貫して困難」がある一方、双極性障害では「調子のよい時期」「悪い時期」「普通の時期」がはっきり区別できます。主治医は、この「持続性か、波があるか」を最重要の鑑別ポイントとして評価します。
発症年齢の違い
発症年齢も重要な鑑別ポイントです。
- 【ADHD】症状は12歳以前に現れる(大人になってから発症することはない)
- 【双極性障害】思春期〜成人期(10代後半〜20代)に発症することが多い
「子どもの頃はまったく問題なかったのに、20代になってから急に気分の波が激しくなった」という場合は、ADHDよりも双極性障害が疑われます。逆に、「子どもの頃から忘れ物や落ち着きのなさが目立っていた」という場合はADHDの可能性が高くなります。
睡眠の違い(「眠らなくても平気」は双極性の特徴)
睡眠の状態は、鑑別の大きな手がかりになります。
- 【ADHDの睡眠】入眠困難・夜型傾向・睡眠不足で日中に眠くなる
- 【双極性障害の躁状態の睡眠】ほとんど眠らなくても平気・疲れを感じない・「寝不足感」がない
「2〜3時間しか寝ていないのにエネルギッシュで疲れない」という状態は、双極性障害の躁状態に特徴的です。ADHDでは、睡眠が短いと日中のパフォーマンスが落ちるのが一般的です。
気分の高揚・誇大性の有無
気分の高揚や誇大性(自分を過大評価する感覚)は、双極性障害の躁状態に特徴的な症状で、ADHDには見られません。
- 「自分は特別な存在だ」「何でもできる気がする」(誇大感)
- 「有頂天になる」「世界が輝いて見える」(気分の高揚)
- 「壮大な計画を立てる」「天才的なアイデアが浮かぶ」
これらの症状がある場合は、双極性障害の可能性が高まります。ADHDの人にも自信過剰な場面はありますが、「誇大性」というレベルには至りません。
原因・メカニズムの違い
両疾患の根本的な違いは、脳のメカニズムと原因にあります。
- 【双極性障害】神経伝達物質のバランス異常・ゲノム要因による脳の調節機能の異常
- 【ADHD】前頭葉の発達の遅れ・ドーパミン機能の問題
これが、治療薬が真逆のアプローチになる理由です。双極性障害は「気分を安定させる薬」、ADHDは「脳を活性化させる薬」を使います。
症状別の見分けポイント

症状別に細かく見ていくと、鑑別の手がかりが見えてきます。
衝動性の違い
どちらにも衝動性がありますが、現れ方が異なります。
- 【ADHDの衝動性】一貫して見られる・比較的小さなレベル(うっかり発言・順番を待てない等)
- 【双極性障害の躁状態の衝動性】エピソード中のみ・規模が大きい(高額浪費・大きな投資・衝動的な退職等)
ADHDの衝動性は「いつもの本人らしい」のに対し、双極性障害の衝動性は「その時期だけ異様に大規模」という違いがあります。
多弁の違い
- 【ADHDの多弁】常にしゃべり続ける・思いついたことをすぐ口にする
- 【双極性障害の多弁(躁状態)】普段と比べて明らかに増えた・話題が次々飛ぶ・早口で止められない
「普段はそれほどしゃべらない人が急に多弁になった」なら双極性障害、「幼い頃から一貫して多弁」ならADHDの可能性が高いです。
集中力・注意の違い
集中力の問題にも特徴があります。
- 【ADHDの集中困難】注意の「ロック機能」の問題。興味のないことに集中できないが、興味のあることには過集中
- 【双極性障害の集中困難】エピソード中のみ。躁状態では注意が「転導(次々に移る)」、うつ状態では思考停止
ADHDの過集中は、時間を忘れるほど没頭できるのが特徴です。一方、双極性障害の躁状態では、複数のことに手を出すものの、一つのことに集中し続けるのが難しいことがあります(観念奔逸)。
気分の浮き沈みの時間軸
気分の変動の時間軸も重要な手がかりです。
- 【ADHDの気分変動】時間単位・日単位で変化する(ちょっとしたことで気分が変わる)
- 【双極性障害の気分変動】数日〜数週間単位で変化する(まとまった期間、同じ気分状態が続く)
「一日の中で気分が何度も変わる」ならADHDの気分反応性、「数週間ずっとテンションが高かった」なら双極性障害の可能性が高くなります。
双極性障害とADHDの併発(合併)
ADHDの10〜40%に双極性障害が併発
双極性障害とADHDが併発(合併)するケースは決して珍しくありません。文献によって数値はばらつきがありますが、ADHDの方の10〜40%に双極性障害が併存するとの報告があります。
逆の視点でも、双極性障害の方にADHDの特性が認められるケースは少なくなく、「どちらかを治療すれば終わり」ではなく、両方を考慮する必要があるのです。
併発しやすい理由
両者が併発しやすい理由として、以下が考えられています。
- 【遺伝的な共通性】両疾患とも脳の神経伝達物質の異常が関わり、遺伝的な重なりがある
- 【症状の連続性】ADHDの多動・衝動性や気分の揺らぎが、双極性障害につながるケースがある
- 【発達的な視点】ADHDの特性を持つ方が、思春期以降に気分障害を発症しやすい可能性
ADHDの特性が、双極性障害発症のリスク因子となっている可能性が研究されています。
併発時の診断の難しさ
両方の疾患を併発している場合、診断はさらに複雑になります。
- どちらがメインの疾患か判断が難しい
- どの症状がどちらから来ているか見分けにくい
- 治療が一つの疾患だけではカバーできない
- 治療薬の選択に慎重さが求められる
この場合、発達障害と気分障害の両方に詳しい専門医の診察を受けることが望ましいです。
併発時の治療アプローチ
併発している場合の治療は、基本的に「双極性障害の治療を優先」します。これは、双極性障害の気分の波が不安定なままADHD治療薬を使うと、躁状態を悪化させるリスクがあるためです。
具体的な流れとしては、次のような順序になります。
- まず気分安定薬で双極性障害の気分の波を安定させる
- 気分が安定してから、必要に応じてADHD治療薬を慎重に追加
- ADHD治療薬を使う際は、気分への影響を注意深くモニタリング
- 環境調整・心理社会的治療を並行して行う
誤診されやすい理由と注意点
ADHD→双極性障害と誤診されるパターン
ADHDであるにもかかわらず、双極性障害と診断されてしまうケースがあります。
- ADHDに詳しくない医師が「気分の波=双極性障害」と判断した
- ADHDの過集中と集中困難の切り替えを、気分のアップダウンと誤認
- ADHDの衝動性や多弁を、軽躁状態と誤認
- ADHDによる二次的なうつ状態をうつ病のエピソードと誤認
この場合、気分安定薬を飲み続けてもADHDの症状は改善せず、「治療を続けても良くならない」と感じることが多くなります。
双極性障害→ADHDと誤診されるパターン
逆のパターンもあります。
- 軽躁状態の多動・多弁をADHDの特性と誤認
- 躁状態中の発言を「衝動性」と判断
- うつ状態でない時期に受診し、気分の波が伝わらない
- 双極性障害Ⅱ型で軽躁状態が軽微な場合
この場合、ADHD治療薬(メチルフェニデート等)を処方されることがありますが、これが次に述べる大きな問題を引き起こすことがあります。
ADHD治療薬で躁状態が悪化するリスク
双極性障害の方にADHD治療薬(特にメチルフェニデート=コンサータ、アトモキセチン=ストラテラなど)を使用すると、躁状態を誘発・悪化させるリスクがあります。
ADHD治療薬は脳内のドーパミンやノルアドレナリンの働きを活発にする薬で、脳を「活性化」させる方向に働きます。ADHDの方には注意力改善などの効果をもたらしますが、双極性障害の方では気分の波をより激しくする可能性があります。
双極性障害の診断を受けている方は、ADHD治療薬の使用については必ず主治医と十分に相談してください。自己判断での服用や、他の医師が処方したADHD治療薬を双極性障害の主治医に報告しないのは危険です。
治療法の違い

双極性障害の治療(気分安定薬中心)
双極性障害の治療は、薬物療法が中心です。
- 【気分安定薬】リチウム・バルプロ酸・ラモトリギン・カルバマゼピン
- 【非定型抗精神病薬】オランザピン・クエチアピン・アリピプラゾール
- 【抗うつ薬】慎重に使用(単独使用は避ける)
目標は「躁状態の改善」「うつ状態の改善」「気分の波の安定化(再発予防)」の3つです。薬物療法を中心に、精神療法・心理社会的治療も組み合わせます。
ADHDの治療(中枢神経刺激薬+環境調整)
ADHDの治療は、環境調整・心理社会的治療が基本で、薬物療法は補助的に使われます。
- 【中枢神経刺激薬】メチルフェニデート(コンサータ)・リスデキサンフェタミン(ビバンセ)
- 【非刺激薬】アトモキセチン(ストラテラ)・グアンファシン(インチュニブ)
- 【環境調整】スケジュール管理・時間管理・タスクの細分化
- 【心理社会的治療】認知行動療法・コーチング
ADHDは生まれ持った特性なので「治す」というより、「特性とうまく付き合う」「困りごとを減らす」ことが治療の目標です。
併発時の治療
両疾患を併発している場合の治療は、より複雑な調整が必要です。
- まず気分安定薬で気分の波を安定させる
- 気分が安定してからADHD治療薬を慎重に追加
- 非刺激薬(アトモキセチン等)のほうが躁転リスクが低いとされ、併発例で選択されることが多い
- 定期的な気分評価で躁状態の徴候をモニタリング
- 環境調整と心理療法を並行
正しい診断を受けるためにできること

子どもの頃のエピソードを整理する
ADHDと双極性障害の鑑別では、「いつから症状があるか」が極めて重要です。次のような情報をまとめておきましょう。
- 幼稚園・小学生の頃の学校での様子
- 忘れ物・ケアレスミス・落ち着きのなさの有無
- 通知表の所見・指摘事項
- 宿題や持ち物の管理がどうだったか
- 家庭での様子(じっとできない・片付けができない等)
子どもの頃から症状があれば、ADHDの可能性が高まります。逆に、それまで普通に生活していて思春期以降に変化があった場合は、双極性障害を疑います。
気分の波を記録する
気分の波を客観的に把握するため、気分日記をつけるのも有効です。
- 毎日の気分を10段階で記録
- 睡眠時間・食欲・活動量も記録
- 特別な出来事・ストレス要因
- 服薬状況
数週間分の記録を診察時に持参すると、医師の診断に役立ちます。気分安定アプリなど、スマホで簡単に記録できるツールもあります。
家族に情報提供してもらう
双極性障害では、本人が躁状態のことを「調子がよかっただけ」と認識していることが多く、本人の自己申告だけでは診断が難しい場合があります。
可能であれば、幼少期からの様子をよく知る家族(親・兄弟・配偶者)と一緒に受診することをおすすめします。家族の視点からの情報——「あの時期は人が変わったようだった」「小さい頃から忘れ物が多かった」など——が診断の大きな手がかりになります。
セカンドオピニオンの活用
診断に疑問がある場合、セカンドオピニオン(他の医師の意見)を求めることも選択肢です。特に、次のような場合は別の医師の診察を受けることを検討しましょう。
- 長期間治療しているが症状が改善しない
- 治療方針に納得できない
- 双極性障害とADHDの両方を疑っているが、医師が片方しか考慮していない
- 子どもの頃のエピソードが十分に聴取されていない
発達障害と気分障害の両方に詳しい専門医を選ぶと、併発の可能性も含めて総合的に診てもらえます。
仕事・日常生活での工夫
どちらの診断であっても、日常生活や仕事での工夫で生活の質を大きく改善できます。共通するポイントをご紹介します。
- 【生活リズムの維持】毎日決まった時間に起床・就寝・食事する
- 【タスク管理ツールの活用】手帳・リマインダー・ToDoアプリを活用
- 【環境整備】集中しやすい環境を作る(静かな場所、物を減らす等)
- 【無理な約束を避ける】自分のキャパシティを知って調整する
- 【信頼できる人のサポート】家族・同僚・友人に協力を頼む
- 【職場での配慮を求める】合理的配慮・業務調整を相談
- 【定期通院と服薬の継続】自己判断で治療を中断しない
- 【支援機関の活用】就労移行支援・リワーク・自立支援医療等
双極性障害とADHDの方は、精神障害者保健福祉手帳や自立支援医療制度の対象になることが多く、医療費軽減や就労支援など様々な支援を受けられます。必要に応じて活用しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. ADHDと診断されていましたが、双極性障害かもしれません。見分ける方法は?
重要なポイントは、「子どもの頃から一貫して症状があったか」「気分の波にまとまった期間の波があるか」「異常な気分の高揚や誇大感があるか」の3点です。思春期以降に気分の波が目立つようになった、数日〜数週間単位で気分が大きく変動する、「眠らなくても平気だった時期」がある——これらに当てはまる場合は、双極性障害の可能性を主治医に相談してみてください。
Q2. 双極性障害と診断されていますが、集中力の問題はADHDのせいではないですか?
その可能性はあります。双極性障害とADHDが併発するケースは珍しくありません。特に、気分が安定している時期(寛解期)にも集中困難・忘れ物・計画性の問題が続いているなら、ADHDの併発が疑われます。次回の診察で「小さい頃から集中困難があった」ことを伝え、ADHDの評価を受けることを検討してみてください。
Q3. ADHD治療薬は双極性障害の人は飲めないのですか?
絶対に飲めないわけではありませんが、慎重な判断が必要です。メチルフェニデート(コンサータ)などの中枢神経刺激薬は躁状態を誘発するリスクがあるため、双極性障害の方には原則として使いません。非刺激薬(アトモキセチン=ストラテラ、グアンファシン=インチュニブ)はリスクが比較的低いとされ、気分安定薬との併用下で慎重に使われることがあります。必ず主治医と相談してください。
Q4. 子どもの双極性障害とADHDはどう見分けますか?
子どもの場合は特に鑑別が難しいです。ADHDは12歳以前に症状が現れるため、小児期から症状があればADHDを疑います。一方、子どもの双極性障害は10歳以下の発症は稀で、症状も非典型的で、短時間で気分が変動することが多いのが特徴です。子どもの症状で悩んでいる場合は、児童精神科の専門医に相談することをおすすめします。
Q5. 両方の診断がついた場合、どちらの治療を優先しますか?
基本的には双極性障害の治療を優先します。気分の波が不安定な状態でADHD治療薬を使うと躁状態を悪化させるリスクがあるため、まず気分安定薬で気分を安定させ、その上で必要に応じてADHD治療薬を慎重に追加します。環境調整や心理社会的治療は、どちらの疾患にも並行して行われます。
Q6. うつ病と診断されていますが、双極性障害とADHDのどちらが隠れているか判断できません。
うつ病の治療で改善しない場合、両方の可能性があります。「異常に調子がよかった時期」があれば双極性障害、「子どもの頃から忘れ物・注意散漫が続いている」ならADHDが疑われます。両方当てはまる場合は併発の可能性もあります。主治医に両方の可能性を相談するか、発達障害にも詳しい精神科医にセカンドオピニオンを求めると良いでしょう。
Q7. ASD(自閉スペクトラム症)も関係するのですか?
ASDも双極性障害と鑑別が必要な疾患の一つです。ASDの方の過集中や睡眠の減少が双極性障害の躁状態と似て見えることがあり、ASDに双極性障害(特にⅡ型)が併発するケースもあります。ADHDとASDが併存している方も多く、発達障害全般と気分障害の関係は複雑です。発達障害の専門医による丁寧な評価が望ましいです。
まとめ
双極性障害とADHDの違いと見分け方について、重要なポイントをおさらいします。
- 双極性障害は気分障害、ADHDは発達障害で、本質的に別の疾患
- 最大の違いは「エピソード性(双極性障害)」vs「持続性(ADHD)」
- 発症年齢:ADHDは幼少期から、双極性障害は思春期以降
- 「眠らなくても平気」「気分の高揚・誇大性」は双極性障害に特徴的
- 「ずっと昔から忘れ物が多い」「集中できない」はADHDに特徴的
- 併発(合併)するケースも10〜40%と珍しくない
- 双極性障害にADHD治療薬を使うと躁状態悪化のリスク
- 治療薬が全く異なるため、正確な診断が極めて重要
- 幼少期のエピソード・気分日記・家族の情報が診断に役立つ
- 診断に疑問があればセカンドオピニオンの活用も
双極性障害とADHDは、症状の見た目が似ているため、専門医でも鑑別が難しい2つの疾患です。診断に迷いや違和感があれば、発達障害と気分障害の両方に詳しい医師に相談することをおすすめします。
誤った診断で治療を続けることは、効果が得られないだけでなく、時に症状を悪化させるリスクもあります。正しい診断に基づく適切な治療で、あなたに合った回復の道筋が開けていくことを心から願っています。
双極性障害でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
監修者
院長 根木 淳
愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手金融機関に勤務。2005年、秋田大学医学部卒業後、名古屋市立大学医学部精神科に入局。八事病院、三重県立子ども心身発達医療センターなどで研鑽を積む。京都大学医学部大学院とfMRIによる精神症状の脳機能の共同研究を経て慶應義塾大学大学院精神・神経科に入局。東京大学工学系研究科と連携して自動車運転の認知機能と安全性についての研究を行う。大学病院での診療、戸田病院、秋元病院、ガーデンクリニックなどでの診療業務に併行して、外資系及び国内大手IT企業、外資系大手コンサルティングファーム、テレビ・インターネット通販企業、都市銀行、国内大手証券会社、総合商社、特許翻訳・知財コンサル系企業、建設コンサルタント企業、広告代理店、大手旅行代理店、独立行政法人(公的法務支援機関)、大手不動産、大手企業信用調査会社、グローバルEC系企業、大手アパレル企業、国内最大手スーパーなど、都心大企業を中心に50社以上の産業医として企業のメンタルヘルスに従事。令和2年5月、北越谷駅前さくらメンタルクリニック院長に就任。併行して産業医業務に従事している。 【資格・所属学会など】 日本精神神経学会専門医・指導医 精神保健指定医 日本医師会認定産業医 日本老年精神医学会専門医・指導医