クリニックブログ
「気分の波が激しくて自分でもコントロールできない」「うつ病と診断されたけど、妙に調子がいい時期もある」「家族が最近人が変わったように元気すぎて心配」——そんな疑問や不安から、双極性障害について調べている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
双極性障害(双極症)は、気分が異常に高揚する「躁状態」と気分が激しく落ち込む「うつ状態」を繰り返す脳の病気です。かつては「躁うつ病」と呼ばれていた病気で、約100人に1人が発症するといわれており、決して珍しい病気ではありません。
この病気で特に注意が必要なのは、躁状態のときに本人に病気の自覚がないことです。気分がよいので治療を受けようとせず、大きな浪費・無謀な投資・人間関係のトラブルなど、に発展することがあります。一方でうつ状態は重く、自殺リスクも決して低くありません。
しかし、適切な治療を続ければ、症状をコントロールし、それまでと変わらない日常生活を送ることは十分可能です。この記事では、双極性障害の基礎知識、症状、Ⅰ型とⅡ型の違い、うつ病との違い、原因、診断、治療までを網羅的に解説します。正しい理解が、早期発見と回復への第一歩です。
双極性障害(双極症)とは
躁状態とうつ状態を繰り返す脳の病気
双極性障害は、気分が異常に高揚する「躁(そう)状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」の両極端を繰り返す精神疾患です。気分の波のない穏やかな時期(寛解期)もあり、その時期は普通に日常生活を送れます。
「誰でも気分の浮き沈みはある」と思われるかもしれません。確かに嬉しいことがあれば気分が高揚し、嫌なことがあれば落ち込むのは自然なことです。しかし、双極性障害の場合、その気分の波が通常の範囲を大きく超えており、本人の意思ではコントロールできず、家族・仕事・財産などに深刻な影響を及ぼすレベルに達します。
双極性障害は「性格の問題」や「気の持ちよう」ではなく、脳内の神経伝達システムに異常が生じている病気です。適切な治療が必要な医学的疾患として理解することが重要です。
「双極症」という新しい呼称(ICD-11)
双極性障害は、かつて「躁うつ病」と呼ばれていましたが、現在では「双極性障害」という病名が一般的です。さらに近年、「障害」という言葉が偏見を招く可能性があるとの考えから、WHO(世界保健機関)の国際疾病分類ICD-11では、日本語訳として「双極症」が採用されました。
医療現場では「双極性障害」「双極症」「躁うつ病」の3つが混在していますが、いずれも同じ病気を指しています。この記事では主に「双極性障害」と表記しますが、最新の呼称は「双極症」と覚えておくとよいでしょう。
発症年齢と頻度
双極性障害は決して珍しい病気ではなく、世界的におよそ100人に1人(約1%)が発症するとされています。Ⅰ型・Ⅱ型・その他を含めると2〜3%に上るという報告もあります。日本では有病率がやや低く、0.7%程度とする報告もあります。
- 発症年齢:20代前後の若年期に多い
- 男女比:ほぼ同じ(うつ病は女性が約2倍多い)
- 発症年齢の幅:中学生〜老年期まで幅広く発症
- 慢性疾患:再発を繰り返しながら経過する
うつ病に比べて発症頻度は低いものの、再発を繰り返す慢性の病気のため、実際に医療機関で治療を受けている患者数は多い特徴があります。
双極性障害の種類
双極性障害は、躁状態の程度によって主に2つのタイプに分けられます。
双極Ⅰ型障害
双極Ⅰ型障害は、激しい「躁状態」を伴うタイプです。躁状態は日常生活に重大な支障をきたすレベルで、入院が必要になることも多くあります。ほとんどの場合うつ状態も現れますが、躁状態があればうつ状態がなくてもⅠ型と診断されます。
躁状態のときは、眠らずに動き回る、話が止まらない、大きな買い物を連発する、突然の投資・転職・人間関係の断絶などを引き起こし、財産や社会的信用を一気に失うリスクがあります。本人は「調子がとても良い状態」と感じているため、周囲が止めるのは非常に困難です。
双極Ⅱ型障害
双極Ⅱ型障害は、比較的軽い「軽躁状態」とうつ状態を繰り返すタイプです。軽躁状態は、Ⅰ型の躁状態ほど激しくはなく、日常生活をなんとか維持できる程度の高揚状態です。
軽躁状態は「いつもより活動的」「元気でテンションが高い」程度に見えるため、本人も周囲も病気と気づきにくく、うつ病と誤診されることが非常に多いタイプです。しかしうつ状態の期間はⅠ型より長く、自殺リスクも高いため、Ⅰ型と同様にしっかりした治療が必要です。
Ⅰ型とⅡ型の比較表
Ⅰ型とⅡ型の違いを表で整理しました。
|
比較項目 |
双極Ⅰ型障害 |
双極Ⅱ型障害 |
|---|---|---|
|
躁状態の程度 |
激しい躁状態(社会生活に重大な支障) |
軽躁状態(日常生活はなんとか維持できる) |
|
入院の必要性 |
入院が必要になることが多い |
入院が必要になることは少ない |
|
うつ状態 |
現れることが多い |
必ず現れる |
|
うつ状態の長さ |
躁状態より長い傾向 |
Ⅰ型より長い |
|
誤診されやすさ |
比較的気づかれやすい |
うつ病と誤診されやすい |
|
自殺リスク |
高い |
Ⅰ型より高いとされる |
|
社会的影響 |
大きい(財産・信用の損失) |
うつ状態の再発で生活に影響 |
その他のタイプ(気分循環症・混合性エピソード・急速交代型)
Ⅰ型・Ⅱ型以外にも、いくつかのタイプがあります。
- 【気分循環症(気分循環性障害)】軽い躁状態と軽いうつ状態を2年以上(子どもは1年以上)繰り返すタイプ。Ⅰ型・Ⅱ型の診断基準は満たさないが、症状は慢性的に続く
- 【混合性エピソード】躁状態とうつ状態の症状が同時に現れる状態。「気分は落ち込んでいるのにじっとしていられない」「焦燥感が強く眠れない」など。自殺リスクが特に高い
- 【急速交代型(ラピッドサイクラー)】1年間に4回以上の気分エピソードを繰り返すタイプ。治療が難しく、専門的なアプローチが必要
躁状態・軽躁状態の症状
気分面の症状
躁状態・軽躁状態では、気分が異常に高揚し、本人は「絶好調」と感じています。
- 異常に気分がいい・多幸感がある
- 自分が偉大な人物だと感じる(誇大感)
- 些細なことで怒りやすい(易怒性)
- 焦燥感・落ち着かなさ
- 「何でもできる」という万能感
思考・行動面の症状
思考と行動が異常に活発になります。
- 睡眠時間が2時間以上少なくても平気
- 次々とアイデアが浮かぶが最後までやり遂げられない(観念奔逸)
- 話が止まらない・早口になる
- 注意が散漫になる
- 性的欲求が高まる
- 判断力が低下し、衝動的な行動が増える
社会的な影響(買い物・人間関係のトラブル等)
躁状態では、社会的信用や財産を失うような行動が特徴的です。
- 高額な買い物・投資・ギャンブルで借金
- 無計画な転職・起業・退職
- 上司や家族との大喧嘩・衝動的な絶縁
- 浮気・不適切な人間関係
- 飲酒や薬物の過剰使用
- 車の無謀な運転、トラブルにつながる行為
Ⅰ型の躁状態では、これらの行動を病気の症状として本人がコントロールすることが難しい場合があります。周囲の早期介入が重要です。
本人に自覚がない
躁状態・軽躁状態の最も厄介な点は、本人に病気の自覚(病識)がないことです。むしろ「人生で最も調子がいい」「やっと本来の自分を取り戻した」と感じています。
そのため、家族や周囲が「いつもと違う」「病気では?」と気づき、受診を促す役割が非常に重要になります。躁状態のまま治療を受けないと、取り返しのつかない事態に発展することがあります。
うつ状態の症状

気分面・身体面の症状
双極性障害のうつ状態は、うつ病のうつ状態とほぼ同じ症状を示します。
- 一日中ゆううつな気分が続く
- 何をしても楽しめない・興味がわかない
- 強い疲労感・体が鉛のように重い
- 眠れない、または眠りすぎる(過眠)
- 食欲低下または過食
- 集中力・判断力の低下
- 強い自責感・罪悪感
- 「死にたい」「消えたい」といった希死念慮
うつ病より自殺リスクが高い
双極性障害のうつ状態は、うつ病のうつ状態よりも自殺リスクが高いことが知られています。特に、躁状態で人間関係や財産を失った後のうつ状態は強烈で、「すべてを取り返しのつかない状態にしてしまった」という強い自責感に襲われます。
また、混合性エピソード(うつと躁が同時に現れる状態)では、絶望感と行動エネルギーが同時に存在するため、自殺リスクがさらに高まります。家族や周囲のサポートが特に重要な時期です。
うつ状態の期間のほうが長い
双極性障害では、一般的に躁状態よりもうつ状態の期間のほうが長くなる傾向があります。特にⅡ型では、うつ状態の期間がⅠ型よりもさらに長いとされます。
そのため、患者さんがクリニックを受診するのはうつ状態の時期であることが圧倒的に多く、軽躁状態は見過ごされがちです。これがⅡ型障害がうつ病と誤診されやすい大きな理由の一つです。
うつ病との違い
比較表でみる違い
双極性障害とうつ病は、名前は似ていても全く異なる病気です。主な違いを表で整理しました。
|
比較項目 |
双極性障害(双極症) |
うつ病 |
|---|---|---|
|
気分の状態 |
躁(軽躁)とうつの両極端を繰り返す |
うつ状態のみ |
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DSM-5の分類 |
双極性障害および関連障害群 |
抑うつ障害群 |
|
治療薬の中心 |
気分安定薬(リチウム等) |
抗うつ薬(SSRI・SNRI等) |
|
抗うつ薬単独使用 |
躁転のリスクがあるため注意 |
基本治療 |
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発症頻度 |
約100人に1人(1〜2%) |
約15人に1人(6〜8%) |
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男女比 |
ほぼ同じ |
女性が男性の約2倍 |
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発症年齢 |
20代前後に多い |
幅広い年齢で発症 |
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遺伝的要素 |
比較的強い |
一部関与 |
|
再発性 |
高い(慢性の病気) |
再発するが双極性障害ほどではない |
治療薬が異なる
両者の最も重要な違いは、治療薬が異なることです。
- 【うつ病】抗うつ薬(SSRI・SNRI・NaSSAなど)が中心
- 【双極性障害】気分安定薬(リチウム・バルプロ酸・ラモトリギン)や一部の抗精神病薬が中心
双極性障害の方に抗うつ薬だけを処方すると、「躁転(そうてん)」といって、うつ状態から躁状態に転じてしまうリスクがあります。急速交代型になるリスクも高まるため、正しい診断が極めて重要です。
うつ病と誤診されやすい理由
双極性障害、特にⅡ型は以下の理由でうつ病と誤診されやすい傾向があります。
- 軽躁状態は本人にとって「調子がいい」状態なので受診しない
- 家族も「ただの元気な時期」と思い気づかない
- 受診時はうつ状態のことがほとんど
- 過去の軽躁エピソードを本人が覚えていない・病気と認識していない
- うつ状態の症状はうつ病と区別がつきにくい
治療を受けているうつ病患者の約2〜3割が、実は双極性障害であるとも言われています。うつ病の治療を続けても改善しない場合は、双極性障害を疑う必要があります。
双極性障害のセルフチェック

「自分や家族が双極性障害かもしれない」と思ったら、以下のチェックリストを参考にしてください。ただし、これはあくまで目安で、診断は精神科医のみが行えます。
躁状態のチェックリスト
過去に、以下のような状態が数日〜数週間続いた時期はありませんか?
- 普段と明らかに違う、異常な気分の高揚や開放感があった
- 自分が特別な存在だと感じた、何でもできる気がした
- ほとんど眠らなくても疲れを感じなかった
- いつもより話し続けた、話が止まらなかった
- 次々とアイデアや考えが浮かんできた
- 注意散漫で集中できなかった
- 普段しないような大きな買い物・投資・行動をした
- 性的欲求が異常に高まった
- 周囲から「人が変わったようだ」と言われた
3つ以上当てはまり、その状態が社会生活に支障をきたしていた場合は、双極性障害の可能性が考えられます。
うつ状態のチェックリスト
以下のうつ症状が2週間以上続いたことはありますか?
- ほぼ毎日、気分が沈んでいる
- 好きだったことに興味・喜びを感じない
- 眠れない、または眠りすぎる
- 食欲がない、または過食
- 疲労感が強く、体が重い
- 集中力・判断力が低下している
- 自分を責める気持ちが強い
- 死にたい気持ちがある
自己判断せず受診を
チェックリストに当てはまる項目が多くても、自己診断は危険です。うつ病・適応障害・パニック障害・境界性パーソナリティ障害など、似た症状を示す他の疾患との鑑別が必要だからです。
気になる症状があれば、必ず精神科・心療内科を受診してください。可能であれば、過去の気分の波について話せる家族と一緒に受診すると、診断の精度が高まります。
双極性障害の原因
脳の病気としての側面(神経伝達物質・ゲノム要因)
双極性障害は、脳内の神経伝達物質のバランス異常や、神経細胞内のカルシウム濃度・細胞の興奮性の調節異常など、脳の機能障害によって起こると考えられています。
近年の研究では、ゲノム(遺伝子)要因が細胞内のカルシウム濃度や興奮性の調節を変調させ、気分調節に関わる神経系の機能に変化をもたらすことが指摘されています。「性格」や「育った環境」が原因ではなく、明確な「脳の病気」です。
遺伝的要因
双極性障害は、他の精神疾患に比べて遺伝的要因が比較的強い病気です。
- 親が双極性障害の場合、子どもの発症リスクは約10倍になるとされる
- 一卵性双生児の研究では、片方が発症した場合の発症率は40〜70%
- ただし、遺伝だけで発症が決まるわけではない
血縁者に双極性障害の方がいる場合は、慎重な診断と治療が進められるよう、医師に伝えるようにしましょう。
環境要因・きっかけ
遺伝的な素因に加えて、環境要因やストレスが発症のきっかけになることがあります。
- 大きなライフイベント(結婚・出産・就職・昇進・死別)
- 慢性的なストレス
- 睡眠リズムの乱れ
- 季節の変化
- 薬物・アルコールの使用
- 身体疾患
これらは発症の「引き金」となるだけで、「原因」ではないと考えられています。双極性障害は本人の責任ではないことを理解しておきましょう。
診断の流れ
精神科・心療内科を受診
双極性障害が疑われる場合、まず精神科または心療内科を受診します。気分の浮き沈みが激しく日常生活に支障が出ている、過去に異常な高揚状態があった、うつ病の治療が長期間効かないなど、気になる症状があれば受診を検討しましょう。
問診と心理検査
診断は、血液検査やレントゲンのように明確な指標があるわけではなく、医師による丁寧な問診と心理検査が中心となります。
- 現在の症状と持続期間
- 過去の気分の波(躁状態・うつ状態のエピソード)
- 生活習慣・睡眠・食事
- 家族の病歴
- 服用中の薬
- 飲酒・薬物の使用
- 質問紙による心理検査
問診と検査を総合的に評価し、診断が下されます。
家族からの情報が重要
双極性障害の診断では、家族やパートナーからの情報が非常に重要です。本人は軽躁状態を「調子がよかった時期」としか認識していないため、客観的な視点が不可欠だからです。
可能であれば、過去の様子をよく知る家族と一緒に受診し、「人が変わったように見えた時期」「浪費や大きな決断をした時期」「眠らずに活動的だった時期」などの情報を医師に伝えてください。
診断に時間がかかることがある
双極性障害の診断には、時には数年かかることもあります。特にⅡ型では、軽躁状態の認識が難しく、うつ病として長期間治療を受けた後に診断が変わることが少なくありません。
「一度の受診で確定診断がつかない」ことに焦らず、継続的に通院しながら医師と一緒に症状を観察していくことが大切です。
双極性障害の治療

薬物療法(気分安定薬が中心)
双極性障害の治療の中心は薬物療法です。うつ病と違い、カウンセリングだけで回復が期待できる病気ではなく、薬による気分の安定化が不可欠です。
- 【気分安定薬】リチウム・バルプロ酸・ラモトリギン・カルバマゼピンなど。気分の波を穏やかにする
- 【抗精神病薬(非定型)】オランザピン・クエチアピン・アリピプラゾール・ルラシドンなど。躁状態やうつ状態両方に有効
- 【抗うつ薬】慎重に使用。気分安定薬と併用することが推奨される
薬物療法の目標は、「躁状態の改善」「うつ状態の改善」「気分の波を穏やかにする(再発予防)」の3つです。症状が改善しても、再発予防のため長期的な服薬継続が推奨されます。
精神療法・心理社会的治療
薬物療法と並行して、精神療法(心理社会的治療)も行われます。
- 【心理教育】病気について正しく理解し、症状の管理方法を学ぶ
- 【認知行動療法】歪んだ考え方のクセを修正し、ストレス対処法を身につける
- 【対人関係療法】対人関係や社会リズムを整える
- 【家族療法】家族も病気を理解し、サポート体制を整える
これらの治療を通じて、再発のサインに早く気づく能力、ストレスへの対処力、生活リズムの管理力を身につけていきます。
生活リズムの重要性
双極性障害では、生活リズム(特に睡眠リズム)の安定が極めて重要です。睡眠不足・睡眠リズムの乱れは、躁状態のきっかけになることがあります。
- 毎日同じ時間に起床・就寝する
- 食事の時間を一定にする
- 適度な運動を習慣にする
- アルコール・カフェインを控える
- ストレス管理を意識する
入院が必要なケース
以下のようなケースでは、入院治療が必要になることがあります。
- 激しい躁状態で社会的トラブルが頻発している
- 重症のうつ状態で自殺リスクが高い
- 混合性エピソードで苦痛が強い
- 自分や他者への危険がある
- 薬物療法の調整が必要
入院には本人の同意が必要ですが、躁状態で病識がない場合は家族の同意による医療保護入院が選択されることもあります。
日常生活でできる工夫
生活リズムを整える
治療の基本は薬物療法ですが、日常生活の工夫で症状を安定させる効果があります。
- 規則正しい睡眠(毎日7〜8時間)
- 決まった時間の食事
- 朝の散歩など適度な運動
- カフェイン・アルコール・ニコチンを減らす
- 夜間のスマホ・パソコンを控える
躁・うつのサインを自分で知る
自分の「調子がよすぎる」「落ち込みすぎる」兆候を知ることは、再発防止の大きな力になります。
- 気分日記をつけて毎日の調子を記録する
- 睡眠時間・活動量をチェックする
- 自分なりの「要注意サイン」を家族と共有する
- サインが出たら早めに主治医に相談する
家族・周囲のサポート
家族や友人のサポートは、双極性障害の管理に欠かせません。本人が病気と向き合い、治療を継続するためには、周囲の理解と支えが必要です。
- 病気について正しく学ぶ
- 躁状態のサインを見逃さず、受診を促す
- うつ状態のときは寄り添い、見守る
- 重要な決断(結婚・退職・大きな買い物など)は避けるよう助言する
- 家族自身のセルフケアも忘れない
家族・周囲が気づいたときの対応
本人が躁状態で病識がない場合
躁状態の本人は「絶好調」と感じているため、受診や治療に消極的になりがちです。「病気だから」と言っても受け入れてもらえないことがほとんどです。
まずは強く否定せず、本人の話を聞きながら、「最近睡眠が少ないみたいだから一度診てもらおう」「調子がいい今のうちに健康チェックしよう」など、ハードルを下げた声かけを試みましょう。
受診につなげるコツ
本人を受診につなげるための工夫として、次のような方法があります。
- 家族が先に精神科や精神保健福祉センターに相談し、対応方法を聞く
- かかりつけの内科医から精神科を紹介してもらう
- 「一緒に話を聞いてほしい」と家族の悩みとして受診を提案する
- 本人が信頼している親戚・友人から受診を勧めてもらう
- 明らかに危険な状態の場合は、精神科救急や保健所に相談する
財産管理・トラブル予防
躁状態では、高額な買い物・投資・借金・契約など、財産を失う行動が起こりやすくなります。被害を最小化するための予防策を検討しておきましょう。
- クレジットカード・通帳・印鑑を家族が一時的に預かる
- 大きな契約は必ず家族に相談するルールを決めておく
- 銀行口座の限度額を下げる
- 躁状態での契約は後日取り消せる可能性もある(弁護士に相談)
- 成年後見制度の利用を検討する(深刻なケース)
本人が寛解期(気分が安定している時期)のうちに、躁状態の時の行動予防について話し合っておくことが重要です。本人自身も「自分が躁状態になったら家族に財布を預ける」などのルールを自発的に決めておくと、いざというときに効果を発揮します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 双極性障害は完治しますか?
再発予防を含めた、慢性疾患として長期的な治療が必要と考えられています。しかし、適切な治療を続けることで「寛解(かんかい)」状態——症状がほぼなく安定した生活ができる状態——を長期間維持することは十分可能です。高血圧や糖尿病と同じように、上手に付き合っていく病気と考えるとよいでしょう。
Q2. 薬は一生飲み続けないといけませんか?
多くの場合、再発予防のために長期的な服薬継続が推奨されます。症状が改善しても自己判断で薬をやめると、再発リスクが大きく高まります。ただし、寛解が長期間維持されている場合は主治医と相談の上、慎重に減薬することもあります。いずれにせよ自己判断での中止は厳禁です。
Q3. 双極性障害だと仕事はできませんか?
適切な治療で症状をコントロールできれば、一般的な仕事を続けることは十分可能です。実際に、社会的に活躍している当事者も多くいます。ただし、気分の波が大きい時期は休職が必要になることもあります。傷病手当金・障害年金などの支援制度を活用しながら、自分に合った働き方を模索することが大切です。
Q4. 結婚・妊娠・出産はできますか?
できます。ただし妊娠・出産前後はホルモンバランスの変化で症状が不安定になりやすく、服用中の薬が胎児に影響する可能性もあるため、主治医との十分な相談が必要です。「妊娠を希望している」と早めに伝え、薬の調整・管理を計画的に行いましょう。産科と精神科の連携も重要です。
Q5. 遺伝するので子どもを持つのが怖いです。
遺伝的要因は確かにありますが、必ず遺伝するわけではありません。親が双極性障害でも、子どもが発症しない場合のほうが多いです。気になる場合は、主治医や遺伝カウンセラーに相談することもできます。発症リスクを知ることで、早期発見・早期治療につなげられる利点もあります。
Q6. うつ病と診断されて3年治療してきましたが、双極性障害かもしれません。
うつ病の治療を長期間続けても改善しない場合、双極性障害の可能性を疑う必要があります。次回の診察時に、「過去に異常に調子がよかった時期はなかったか」を家族と振り返り、主治医に伝えてみてください。診断が変われば治療方針も大きく変わります。セカンドオピニオンを検討することも選択肢の一つです。
Q7. 家族が受診を拒否しています。どうすればいいですか?
無理強いせず、まず家族だけで精神科や精神保健福祉センター・保健所に相談することをおすすめします。専門家から、本人を受診につなげるための具体的なアドバイスを受けられます。緊急性が高い場合(自傷・他害のおそれなど)は、保健所や精神科救急に連絡してください。一人で抱え込まず、専門家の力を借りましょう。
まとめ
双極性障害(双極症)は、躁状態とうつ状態を繰り返す脳の病気です。決して珍しい病気ではなく、適切な治療を続ければ安定した日常生活を送ることができます。
大切なポイントをおさらいします。
- 双極性障害は躁(軽躁)状態とうつ状態を繰り返す脳の病気
- Ⅰ型は激しい躁状態、Ⅱ型は軽躁状態が特徴
- ICD-11では「双極症」という新しい呼称が採用されている
- 約100人に経験するとされる、珍しくない病気
- うつ病とは別の病気で、治療薬も異なる
- うつ病と誤診されやすく、正確な診断が極めて重要
- 躁状態では本人に病識がなく、周囲の早期介入が必要
- 自殺リスクがうつ病より高く、特に混合性エピソードは要注意
- 治療の中心は気分安定薬による薬物療法
- 生活リズムの安定が再発防止に重要
- 家族のサポートと財産管理などの予防策が有効
気分の波に振り回されて日常生活や人間関係に支障をきたしている場合、一人で抱え込まず、ぜひ精神科・心療内科を受診してください。病気を正しく理解し、適切な治療を続けることで、双極性障害とうまく付き合いながら充実した人生を送ることは十分可能です。
双極性障害でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
監修者
院長 根木 淳
愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手金融機関に勤務。2005年、秋田大学医学部卒業後、名古屋市立大学医学部精神科に入局。八事病院、三重県立子ども心身発達医療センターなどで研鑽を積む。京都大学医学部大学院とfMRIによる精神症状の脳機能の共同研究を経て慶應義塾大学大学院精神・神経科に入局。東京大学工学系研究科と連携して自動車運転の認知機能と安全性についての研究を行う。大学病院での診療、戸田病院、秋元病院、ガーデンクリニックなどでの診療業務に併行して、外資系及び国内大手IT企業、外資系大手コンサルティングファーム、テレビ・インターネット通販企業、都市銀行、国内大手証券会社、総合商社、特許翻訳・知財コンサル系企業、建設コンサルタント企業、広告代理店、大手旅行代理店、独立行政法人(公的法務支援機関)、大手不動産、大手企業信用調査会社、グローバルEC系企業、大手アパレル企業、国内最大手スーパーなど、都心大企業を中心に50社以上の産業医として企業のメンタルヘルスに従事。令和2年5月、北越谷駅前さくらメンタルクリニック院長に就任。併行して産業医業務に従事している。 【資格・所属学会など】 日本精神神経学会専門医・指導医 精神保健指定医 日本医師会認定産業医 日本老年精神医学会専門医・指導医