クリニックブログ

2026.06.16 双極性障害

双極性障害の原因とは?脳のメカニズム・遺伝・ストレスの関係を精神科医目線で解説

「なぜ自分が双極性障害になってしまったのか」「家族が発症したのは、自分の育て方が悪かったからなのか」「子どもに遺伝してしまうのだろうか」——双極性障害(双極症)と診断された方や、そのご家族の多くが、こうした原因をめぐる問いに悩まされます。

まず最初にお伝えしたいのは、双極性障害は「性格の問題」でも「育ち方の問題」でもなく、脳の機能障害による病気だということです。ストレスや環境要因の影響を受けやすいうつ病とは異なり、双極性障害はより生物学的な要因(特に遺伝やゲノム)が大きく関わる病気だと近年の研究でわかってきました。

この記事では、双極性障害の原因について、脳のメカニズム・遺伝的要因・ストレス・環境要因の4つの観点から精神科医の視点で詳しく解説します。また、「原因」と「きっかけ」の違い、再発の誘因、予防の可能性など、当事者とご家族が気になる情報を網羅的にまとめました。

原因を正しく理解することは、罪悪感から解放され、適切な治療と再発予防に向かうための大切な一歩です。どうか最後までお読みください。

双極性障害の原因は「ひとつ」ではない

現在の医学では完全に解明されていない

率直に申し上げると、双極性障害の原因は現在の医学でも完全には解明されていません。これは医療の限界ではなく、双極性障害が非常に複雑なメカニズムで起こる病気だからです。

ただし、近年の研究によって、脳の機能障害、遺伝的要因、ストレスや環境など、いくつかの要素が絡み合って発症することは明らかになっています。多くの研究者が原因解明に向けた研究を続けており、今後さらに理解が進むことが期待されています。

複数の要因が絡み合って発症する(生物・心理・社会)

双極性障害の発症には、一般に以下の3つの要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

  • 【生物学的要因】脳の神経伝達物質の異常・脳内カルシウム濃度の調節異常・ゲノム要因など
  • 【心理的要因】ストレスへの感受性・思考のクセ・過去の経験など
  • 【社会的要因】ライフイベント・対人関係・環境の変化など

この中でも、双極性障害は特に「生物学的要因」の関与が大きいと考えられており、この点がうつ病(心理社会的要因の関与が大きい)との重要な違いです。

「性格」や「育ち方」は原因ではない

多くの当事者・家族が抱える誤解として、「性格が原因」「親の育て方が悪かった」というものがあります。しかし、双極性障害はこうした性格や養育環境で発症する病気ではありません。

双極性障害は、高血圧や糖尿病のような身体の病気と同様、本人の意思や家族の関わり方ではコントロールできない生物学的な要因が大きく関わる病気です。「自分の性格のせい」「親の育て方のせい」と自責する必要はありません。双極性障害は誰のせいでもない、脳の病気です。

主な原因① 脳の機能障害(生物学的要因)

神経伝達物質のバランス異常

脳の中では、「神経伝達物質」と呼ばれる化学物質を通じて、神経細胞同士が情報をやり取りしています。双極性障害では、この神経伝達物質のバランスに異常が起こっていることが知られています。

  • 【セロトニン】気分の安定・幸福感に関わる。「幸せホルモン」とも呼ばれる
  • 【ノルアドレナリン】やる気・集中・恐怖反応に関わる
  • 【ドーパミン】快楽・報酬・意欲に関わる

これらの神経伝達物質の分泌や受容体の働きに異常が生じると、気分のコントロールがうまくいかなくなり、躁状態やうつ状態が現れると考えられています。

脳内カルシウム濃度・細胞の興奮性

近年の研究では、双極性障害において脳の神経細胞内のカルシウム濃度や細胞の興奮性の調節に異常があることがわかってきています。

神経細胞は、細胞内外のカルシウム濃度の変化によって興奮したり抑制されたりしますが、双極性障害ではこの調節機構が乱れているため、気分の調節に関わる神経系の機能が適切に働かないと推測されています。

これはまさに、双極性障害に脳機能の変化が関与していることを示す科学的な証拠の一つです。

脳の構造的な変化

脳画像研究(MRIなど)によって、双極性障害の方の脳には、健康な方と比較して一部の領域(前頭前野・扁桃体・海馬など)に構造的な違いや活動パターンの違いがあることが報告されています。

これらの脳領域は、感情の調節、意思決定、記憶などに関わる重要な部分です。構造的な違いがあるからこそ、気分の波をコントロールすることが本人の意志だけでは難しくなっているのです。

主な原因② 遺伝的要因

遺伝的要素は比較的強い

双極性障害は、精神疾患の中でも遺伝的要素が比較的強い病気です。近年の研究では、双極性障害は「体の設計図であるゲノムの要因が大きく関与する脳の病気」であることがわかってきています。

ただし、「特定の遺伝子一つが原因」ではなく、複数の遺伝子の組み合わせと環境要因が重なって発症すると考えられています。「双極性障害の遺伝子」と呼べる単一の遺伝子は今のところ発見されていません。

一卵性双生児の発症率

遺伝的要因の強さを示す重要なデータが、一卵性双生児の研究です。

  • 片方が双極性障害を発症した場合、もう片方も発症する確率は40〜70%
  • 二卵性双生児の場合の発症率は10〜20%
  • 一般人口での発症率は約1%

一卵性双生児は遺伝子がほぼ同じであるため、この高い一致率は遺伝的要因の強さを示しています。ただし、一致率が100%ではないことから、遺伝だけで発症が決まるわけではないこともわかります。

親が発症していると子の発症リスクは約10倍

家族歴(家族の病歴)があると、発症リスクは有意に高まります。

  • 親が双極性障害の場合、子どもの発症リスクは約10倍(一般人口比)
  • 兄弟姉妹に双極性障害の方がいる場合もリスクが上昇
  • ただし「必ず発症する」わけではない

家族・親戚に双極性障害の方がいる場合は、精神科の受診時に医師に伝えるようにしましょう。診断や治療方針の決定に役立つ重要な情報となります。

ただし遺伝だけで発症するわけではない

ここで強調したいのは、遺伝的要因があっても、必ず発症するわけではないということです。

一卵性双生児の発症率が40〜70%であるということは、裏を返せば「遺伝子が同じでも30〜60%は発症しない」ということです。家族に双極性障害の方がいても、発症しない人のほうが多いのが実情です。

発症リスクを下げるためには、後述するストレス管理・生活リズムの安定などが重要になります。遺伝は「発症しやすさ」を決めるだけで、実際の発症は環境要因との組み合わせで決まるのです。

主な原因③ ストレス・環境要因(発症のきっかけ)

遺伝的な素因があっても、多くの場合「きっかけ」がなければ発症しません。ストレスや環境要因は、双極性障害の「原因」というより「引き金」として働きます。

大きなライフイベント

人生の節目にあたる大きな出来事は、双極性障害の発症や再発のきっかけになることが知られています。

  • 【ポジティブな変化】結婚・出産・昇進・就職・昇給・転居
  • 【ネガティブな変化】大切な人との死別・離婚・失業・病気・事故・災害
  • 【環境の変化】進学・転校・引っ越し・単身赴任

意外に思われるかもしれませんが、結婚や昇進のような「良い出来事」もストレスとなり、発症の引き金になることがあります。環境変化そのものが、身体と心に負担をかけるためです。

慢性的なストレス

一時的な大きなストレスだけでなく、長く続く慢性的なストレスも双極性障害の発症・悪化要因となります。

  • 職場での長時間労働・ハラスメント
  • 不安定な人間関係
  • 家族の介護
  • 経済的困難
  • 育児の負担

これらのストレスが続くと、脳の調節機能に負担がかかり、遺伝的な脆弱性を持っている方は発症しやすくなります。

睡眠リズムの乱れ

睡眠リズムの乱れは、双極性障害にとって特に重要な発症・再発要因です。睡眠が不規則になると、体内時計が乱れ、気分の調節機能にも影響が出るためです。

  • 夜勤・交代勤務
  • 海外旅行による時差
  • 長期休暇中の生活リズム崩壊
  • 夜更かし・昼夜逆転
  • 不眠症

特に躁状態は睡眠不足をきっかけに現れることがよくあります。「数日眠らなくても平気」という感覚が出てきたら、躁状態のサインかもしれません。

季節の変化

双極性障害の症状は、季節によって変動することがあります。

  • 春〜初夏は躁状態が現れやすい
  • 秋〜冬はうつ状態が現れやすい
  • 季節の変わり目(3月・9月など)は再発注意時期

日照時間の変化がメラトニンやセロトニンといったホルモン・神経伝達物質に影響を与えるためと考えられています。季節変動を自覚している方は、その時期に特に注意を払うとよいでしょう。

薬物・アルコール

特定の物質の使用が、双極性障害の発症や悪化の引き金となることがあります。

  • 【覚醒剤・コカイン】躁状態を誘発する危険性が高い
  • 【アルコールの過剰摂取】睡眠リズムを乱し気分を不安定にする
  • 【カフェインの過剰摂取】不眠や不安を引き起こす
  • 【一部の医薬品】副腎皮質ステロイド・抗うつ薬など(医師の指示で使う場合は別)

特に抗うつ薬は、双極性障害のうつ状態に単独使用すると「躁転」(うつから躁への急激な移行)を引き起こすことがあるため、正確な診断が重要です。

「原因」と「きっかけ」の違い

素因(土壌)×きっかけ(種)という考え方

双極性障害の発症は、「素因(土壌)」と「きっかけ(種)」という比喩で考えるとわかりやすくなります。

遺伝的な素因があっても、発症のきっかけ(ストレス・睡眠不足など)がなければ種が蒔かれないため、発症せずに過ごせる方も多くいます。逆に、素因があるところに大きなストレスが重なると、種が芽を出し、病気として現れる、というイメージです。

つまり、遺伝的素因は「発症しやすさ」を決めるだけで、実際の発症には環境要因が重要な役割を果たします。この「素因×環境」の考え方を「脆弱性ストレスモデル」と呼びます。

性格や育ち方は原因ではない

「発症のきっかけ=原因」と混同されがちですが、これは正確ではありません。ストレスやライフイベントは発症の「引き金」を引くだけで、病気そのものを作り出すわけではありません。

たとえば、多くの人が同じストレスを受けても、双極性障害を発症する人と発症しない人がいます。これは、もともと素因(遺伝的な脆弱性)が異なるからです。したがって、「ストレスのかかる状況に置いた家族のせい」「本人の性格のせい」と考えるのは誤解です。

家族が自分を責める必要はない

「もっと早く気づいてあげればよかった」「育て方が悪かったのでは」と自分を責める家族の方がいますが、双極性障害は育て方や家族関係で発症する病気ではないため、家族が罪悪感を持つ必要はありません。

むしろ、家族ができる最も大切なことは、病気を正しく理解し、治療をサポートすることです。過去を悔やむ時間があれば、これからの回復のために力を使ってください。

発症しやすい年代・傾向

20代から30代に発症が多い理由

双極性障害は、20代から30代前後に発症することが多い病気です。これには次のような理由が考えられます。

  • 大学進学・就職・結婚・出産・転職など、ライフイベントが集中する時期
  • 社会に出ることでストレスの種類・量が急増する
  • 生活リズムが大きく変わる
  • 脳の発達が完成する時期と重なる

ただし、中学生から老年期まで、幅広い年齢で発症する可能性があります。最近の研究では10代の早期発症例も注目されており、若い世代でも気分の極端な波がある場合は専門医への相談が推奨されます。

男女差はほとんどない

うつ病は女性の発症率が男性の約2倍とされていますが、双極性障害では男女差がほとんどないのが特徴です。これも、双極性障害が心理社会的要因(家事・育児・対人関係のストレスなど女性に偏りがちな要因)よりも生物学的要因の関与が大きいことを示しています。

なりやすい性格傾向(循環気質など)

特定の性格が「原因」となるわけではありませんが、発症との関連が指摘される性格傾向があります。

  • 【循環気質】気分の浮き沈みがもともと大きい傾向
  • 【感受性の高さ】刺激に対して敏感
  • 【創造性の高さ】芸術家やクリエイターに双極性障害の方が多いという指摘も

これらは「病気の原因」ではなく、病気の背景にある個性的な傾向と捉えることが大切です。多くの方が、自分らしさを保ちながら治療を続け、社会で活躍しています。

幼少期の経験との関連は?

幼少期のトラウマや虐待などの逆境的な経験は、発症リスクを高める要因の一つとして研究されています。ただし、これは幼少期の経験が「原因」というより、脆弱性を高める要因の一つと考えるのが適切です。

幼少期に特別な出来事がなかった方でも双極性障害を発症することは多く、逆に困難な幼少期を過ごしても発症しない方も多くいます。幼少期だけに原因を求めるのは正確ではありません。

うつ病の原因との違い

比較表で整理

双極性障害とうつ病は、どちらも気分の障害ですが、原因やメカニズムには重要な違いがあります。比較表で整理してみましょう。

比較項目

双極性障害(双極症)

うつ病

主な原因

脳の機能障害(生物学的要因が大きい)

ストレスや心理的背景の影響が大きい

遺伝的要素

比較的強い(親が発症で約10倍)

一部関与するが双極性障害ほどではない

ストレスの関与

発症のきっかけとなるが根本原因ではない

発症の大きな原因となることが多い

性格傾向

循環気質(気分の波がある)との関連

真面目・几帳面・責任感が強い

脳の変化

細胞内カルシウム・ゲノム要因

セロトニン・ノルアドレナリン低下

発症年齢

20代前後に多い(若年発症)

幅広い年齢で発症

男女差

ほぼ同じ

女性が男性の約2倍

遺伝的要素の強さの違い

双極性障害は、うつ病と比べて遺伝的要素が強いことがわかっています。一卵性双生児の一致率でみても、双極性障害の40〜70%に対して、うつ病は30〜40%程度とされます。

そのため、家族に双極性障害の方がいる場合は、うつ病を疑う前に双極性障害の可能性も考える必要があります。うつ病で治療中の方も、家族歴に双極性障害がないか確認してみることをおすすめします。

脳のメカニズムの違い

うつ病は主にセロトニン・ノルアドレナリンの低下がメカニズムとして注目されており、これを補う抗うつ薬が治療の主役です。

一方、双極性障害は細胞内カルシウム濃度や興奮性の調節、ゲノム要因など、より根本的な神経細胞の機能異常が関わっていると考えられています。そのため、抗うつ薬だけでは効果が限定的で、気分安定薬(リチウムなど)が治療の中心となります。

この脳のメカニズムの違いが、治療薬の違いに直結しているのです。

再発の原因(誘因)

双極性障害の再発を引き起こしやすい要因(誘因)を知っておくことは、再発予防に役立ちます。治療を続けている方は、以下に特に注意しましょう。

睡眠不足・昼夜逆転

睡眠リズムの乱れは、双極性障害の再発で最も注意すべき誘因です。睡眠不足や昼夜逆転が続くと、気分の波が大きくなりやすくなります。

特に「眠らなくても平気」「冴えている」と感じる時は、躁状態の始まりの可能性があります。「今日は早めに休もう」と意識的に睡眠を確保することが大切です。

自己判断での服薬中止

「調子がよくなったから薬はもういらない」と自己判断で服薬を中止することは、最も多い再発の原因の一つです。

双極性障害の薬物療法は、症状がない時期(寛解期)でも継続することで再発予防効果を発揮します。調子がよくても、主治医の指示なしに薬をやめないようにしましょう。減薬や中止の判断は必ず医師と相談してください。

ストレスイベント

転職・引っ越し・結婚・離婚など、大きなライフイベントは再発の誘因となります。計画的に準備する・休息を十分に取る・主治医に事前に相談するなど、予防策を講じることが大切です。

季節の変わり目

春(3〜5月)と秋(9〜10月)は、気分の波が起こりやすい時期です。季節の変わり目には、生活リズムを特に意識して整えましょう。

過去の再発時期を振り返って、自分がどの季節に不調になりやすいかを知っておくと、予防対策が立てやすくなります。

アルコール・カフェインの過剰摂取

アルコールは睡眠の質を下げ、気分を不安定にします。カフェインは躁状態を誘発する可能性があります。日常的に大量摂取している方は、少しずつ量を減らしていくことをおすすめします。

また、覚醒剤・大麻などの違法薬物は躁状態を強烈に誘発します。絶対に手を出さないでください。

発症を予防することはできるのか

完全な予防は難しいが対策はある

双極性障害の発症を100%予防する方法は、残念ながら現時点では存在しません。特に遺伝的素因がある方では、完全な予防は難しいのが現状です。

ただし、発症リスクを下げる生活習慣や、万が一発症しても早期発見・早期治療につなげるための知識は、確実に持つことができます。これらは「予防」というより「備え」として意識するとよいでしょう。

生活リズムの維持

最も有効な対策の一つが、規則正しい生活リズムの維持です。

  • 毎日同じ時間に起床・就寝する
  • 1日7〜8時間の睡眠を確保する
  • 食事の時間を一定にする
  • 朝の散歩など軽い運動を習慣にする
  • 昼夜逆転を避ける

生活リズムの安定は、脳内の神経伝達物質やホルモンのバランスを整え、気分の波を防ぐ効果があります。

ストレス管理

慢性的なストレスを避け、適切なストレス対処法を身につけることも重要です。

  • 自分にとってのストレスサインを知る
  • リラクゼーション技法(深呼吸・瞑想・ヨガなど)を身につける
  • 信頼できる人に悩みを話す
  • 趣味・好きなことの時間を確保する
  • 長時間労働や無理な約束を避ける
  • 必要に応じてカウンセリングを利用

早期発見・早期治療が鍵

家族に双極性障害の方がいる、または自分でも気分の波を感じる方は、早期発見のアンテナを立てておきましょう。

  • 気分日記をつけて自分の状態を把握する
  • 家族に「普段と違う変化」に気づいてもらう
  • うつ病と診断されたが症状が良くならない場合は双極性障害を疑う
  • 気になる症状があれば早めに精神科を受診する

早期に適切な治療を開始できれば、症状のコントロールが格段にしやすくなります。

「なぜ自分が」と悩むあなたへ

病気になったのはあなたのせいではない

双極性障害と診断されたとき、「なぜ自分が」「何が悪かったのか」と悩むのは自然な反応です。しかし、すでにお伝えしたように、双極性障害は本人の努力不足や性格の問題で起こる病気ではありません。

高血圧や糖尿病になった人を「自分のせいだ」と責めないのと同じように、双極性障害になったことも自分を責める理由にはなりません。これは脳の病気であり、さまざまな要因が重なって起こる病気なのです。

家族の育て方が原因でもない

「親の育て方が悪かった」「もっとこうすればよかった」と悩むご家族の方へ——双極性障害は、育て方で決まる病気ではありません。遺伝的素因を持つ人が、さまざまな環境要因の積み重ねの中で発症する病気であり、特定の育て方や家族関係で必ず発症するというものではないのです。

過去を後悔するより、これからの治療と支援に目を向けてください。あなたの理解とサポートが、何よりの治療的な力となります。

治療を続ければ安定した生活できる

双極性障害は、精神疾患の中でも治療法が比較的確立されている病気です。気分安定薬を中心とした薬物療法と、心理社会的な支援を組み合わせることで、症状をコントロールしながら安定したの生活を送ることが十分可能です。

原因を知ることは、治療に前向きに取り組むための第一歩です。「なぜ自分が」という問いから、「どう治療していくか」「どう付き合っていくか」へと視点を移していきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 双極性障害は必ず遺伝しますか?

必ず遺伝するわけではありません。親が双極性障害の場合、子どもの発症リスクは約10倍になりますが、発症しない人のほうが多いのが実情です。一卵性双生児でも発症率は40〜70%で、100%ではありません。遺伝的素因に加えて、ストレスや生活環境などの要因が重なって発症します。家族の病歴が気になる場合は、主治医や遺伝カウンセラーに相談することもできます。

Q2. 私の育て方が悪かったから子どもが双極性障害になったのでしょうか?

いいえ、育て方が直接の原因になることはありません。双極性障害は脳の病気であり、遺伝的素因と複数の環境要因が重なって発症するものです。特定の育て方や家族関係で発症が決まるわけではありません。過去を悔やむより、これからの治療と支援に力を注いでください。

Q3. ストレスを避ければ双極性障害にならずに済みますか?

ストレスを完全に避けることは現実的に不可能ですし、ストレスだけが原因ではありません。ただし、慢性的な強いストレス・睡眠リズムの乱れを避けることは、発症リスクを下げたり再発を防いだりする効果があります。ストレス管理は「予防」というより「リスク軽減」と考えるのが適切です。

Q4. うつ病だと思っていましたが、双極性障害かもしれません。どうすればいいですか?

うつ病の治療をしても症状がよくならない、うつ状態の前後に「異常に調子がよかった時期」がある、家族に双極性障害の方がいる——これらに当てはまる場合は、双極性障害の可能性があります。次回の診察で主治医に相談してみてください。過去の「調子がよかった時期」を家族と振り返って、医師に具体的に伝えると診断に役立ちます。必要があればセカンドオピニオンも選択肢です。

Q5. 双極性障害は一生治らないのですか?

現在の医学では「完治」は難しいとされ、慢性疾患として長期的な治療が必要です。しかし、「寛解(症状がほぼない状態)」を長期間維持することは十分可能です。高血圧や糖尿病と同じように、治療を続けながら普通の生活を送っていくイメージです。適切な治療で充実した人生を歩んでいる方はたくさんいます。

Q6. 自分の子どもが双極性障害にならないようにするにはどうすればいいですか?

100%の予防法はありませんが、規則正しい生活リズム、適切なストレス管理、睡眠の確保、過度なアルコールやカフェインを避けるなどの生活習慣がリスク軽減に役立ちます。また、お子さんの様子で「気分の激しい波」「異常な活動性」「長期間のうつ状態」などに気づいたら、早めに精神科医に相談することが重要です。早期発見・早期治療は予後を大きく左右します。

Q7. 幼少期のトラウマがあるのですが、これが原因でしょうか?

幼少期のトラウマは発症リスクを高める要因の一つですが、「唯一の原因」ではありません。トラウマのない方も双極性障害を発症しますし、逆にトラウマがあっても発症しない方もいます。過去のトラウマを原因と断定して自分を責めるより、現在の治療と生活改善に目を向けることが大切です。必要であればトラウマ治療(EMDRなど)を併用することもできます。主治医に相談してみてください。

まとめ

双極性障害の原因について、重要なポイントをおさらいします。

  • 原因は一つではなく、生物学的・心理的・社会的要因が複雑に絡み合って発症する
  • 脳の機能障害(神経伝達物質・カルシウム濃度・ゲノム要因)が中心的な原因
  • 遺伝的要素は比較的強い(親が発症で子のリスク約10倍)
  • ただし遺伝だけで発症が決まるわけではない
  • ストレス・睡眠リズムの乱れ・ライフイベントは「きっかけ」となる
  • 「性格」や「育ち方」は原因ではない
  • 20〜30代に発症が多く、男女差はほぼない
  • うつ病に比べて遺伝的要素・生物学的要因が強い
  • 再発の誘因は睡眠不足・服薬中止・ストレスなど
  • 完全な予防は難しいが、生活リズムとストレス管理でリスクを下げられる
  • 早期発見・早期治療が何よりも重要

双極性障害の原因を理解することは、当事者・家族の心の負担を軽くし、適切な治療に向かうための大切な第一歩です。「なぜ自分が」「誰のせいか」と問い続けるより、「これからどう付き合っていくか」を主治医や家族と一緒に考えていきましょう。

双極性障害は、正しい理解と適切な治療があれば、十分にコントロールしながら充実した人生を送れる病気です。あなたと大切な家族の回復を、心から応援しています。

双極性障害でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

監修者

院長 根木 淳

愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手金融機関に勤務。2005年、秋田大学医学部卒業後、名古屋市立大学医学部精神科に入局。八事病院、三重県立子ども心身発達医療センターなどで研鑽を積む。京都大学医学部大学院とfMRIによる精神症状の脳機能の共同研究を経て慶應義塾大学大学院精神・神経科に入局。東京大学工学系研究科と連携して自動車運転の認知機能と安全性についての研究を行う。大学病院での診療、戸田病院、秋元病院、ガーデンクリニックなどでの診療業務に併行して、外資系及び国内大手IT企業、外資系大手コンサルティングファーム、テレビ・インターネット通販企業、都市銀行、国内大手証券会社、総合商社、特許翻訳・知財コンサル系企業、建設コンサルタント企業、広告代理店、大手旅行代理店、独立行政法人(公的法務支援機関)、大手不動産、大手企業信用調査会社、グローバルEC系企業、大手アパレル企業、国内最大手スーパーなど、都心大企業を中心に50社以上の産業医として企業のメンタルヘルスに従事。令和2年5月、北越谷駅前さくらメンタルクリニック院長に就任。併行して産業医業務に従事している。 【資格・所属学会など】 日本精神神経学会専門医・指導医 精神保健指定医 日本医師会認定産業医 日本老年精神医学会専門医・指導医

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